特 集
血液透析における
ブラッドアクセスについて
板橋中央総合病院血液浄化療法センター ブラッドアクセス治療センター 赤松 眞 |
今号の特集、医学講座は、昨年と今年2回東腎協の活動の中で、ご講演いただいて大変好評で反響の大きかった、ブラッドアクセスについて、板橋中央総合病院血液浄化療法センターの赤松眞先生にご寄稿していただきました。
U.知っておきたい解剖
ブラッドアクセスを理解する上で必要な上肢の血管を示します。橈側皮静脈、尺側皮静脈、肘部正中静脈、橈骨動脈、尺骨動脈、上腕動脈などが重要です。(図1)
V.主なブラッドアクセスの種類について
主なブラッドアクセスには静脈と動脈を吻合する内シャント、動脈を皮下に移動して使用する動脈の表在化、人工血管移植そして透析用カテーテルを留置する方法などがあります。1.内シャント
最も一般的なブラッドアクセスで、前腕の橈側皮静脈と橈骨動脈あるいは尺側皮静脈と尺骨動脈を吻合する方法があります。橈側皮静脈は親指側を比較的直線的に走行するため、穿刺や穿刺針の固定が容易といった利点があり最も多く使用されています。それに対して尺側皮静脈は小指側の手背側を蛇行することが多く、穿刺や固定が難しいといった欠点があります。
2.動脈表在化
動脈の表在化術は上腕動脈を表在化する場合と大腿部の動脈を表在化する場合があります。この場合、脱血用としてのみ使用可能なため、返血(返し)の静脈があることが条件となります。3.人工血管移植術
自己血管でのブラッドアクセス作成が困難な場合、代用血管の移植を行うことがあります。現在ではExpanded polytetrafluoro‐ethylene(E‐PTFE)グラブトやポリウレタングラフトといった人工血管を主に使用しています。通常は上肢に移植しますが(図2)、吻合する血管がない場合は大腿部に移植することもあります。
4.カテーテル留置
カテーテル留置には緊急時に使用する緊急用のブラッドアクセスカテーテルと長期間にわたって使用するカテーテルの2種類があります。W.ブラッドアクセスを作成する際の考え方
ブラッドアクセスの選択においては2つの観点から考える必要があります。第一は解剖学的な問題からどのようなブラッドアクセス作成か可能か、そして第二は全身状態に応じてどのような方法を選択すべきかです。1.重要なポイント
内シャントとしての静脈は狭窄がなく穿刺可能な範囲が長いことが最も重要です。前述したように上肢の重要な皮静脈には橈側皮静脈、尺側皮静脈がありますが、内シャントとして使用する場合その後の穿刺が可能であることが重要です。つまり良好な血流が得られたとしても穿刺できなければ全く意味がないわけです。2.患者さんの全身状態を考慮した選択
全身状態で最も考慮する点は心機能です。シャントは動脈から静脈に血流を逃がすため、その分心臓に負担がかかります。また内シャントに比べて人工血管移植はより多くの血流が空回りするため、多くの負担がかかります。従って心機能が悪い、症例ではこれらのブラッドアクセスを作成することにより心不全を来す可能性があります。そのためあらかじめ心機能を検査し、心機能が悪い場合には動脈表在化やカテーテル留置を行うこととしています。X.日常のブラッドアクセスの管理
通常、血液透析は週3回行うためl日おきにブラッドアクセスを診察してもらう機会があります。しかし現実的には毎回ブラッドアクセスを医師に診察してもらうことは難しいと思います。また毎回同じスタッフが穿刺を行うわけでもなく、意外とブラッドアクセスの異常は見過ごされやすい状況にあります。Y.合併症の対策
ブラッドアクセスにおける主な合併症を示します。図3 内シャント静脈側狭窄に対するPTA a.シャント静脈狭窄(矢印) b.バルーンによる拡張(PTA) c.拡張後の造影 |
内シャントの場合は動静脈吻合部や静脈の狭窄が原因である場合が多く、この場合はシャント造影を行います。その結果狭窄を認めた場合は狭窄部に対して血管造影下の血管拡張術(PTA)を行います(図3)。
血管造影の結果残念ながらPTAの適応にない場合は手術によるシャント再建を考慮します。
また人工血管の場合は静脈側の狭窄がその主な原因であり、透析中の静脈側の回路内圧が上昇してきた場合は人工血管造影を行った方がよいと思われます。
2.シャント閉塞
静脈マッサージやウロキナーゼの注入によって再開通する場合もありますが、たとえ再開通した場合でもいずれ早期に再閉塞する可能性が高いため、血管造影を行っ必要があります。
シャント肢の腫脹や、うっ血による循環不全を静脈高血圧症といいます。シャント側の腕は多少太くなっていることが多いのですが、ひどくなると皮膚の潰瘍や手指の壊死を起こすことがあります(図4)。
原因はさまざまですが、主にはシャントの血流過剰、そしてシャント静脈から中枢側の静脈に狭窄がある場合です。
治療方法はそれぞれの病態によって異なりますが、なるべくシャントを閉鎖しないで治療する方法を考慮しています。
具体的には中枢側静脈の狭窄に対してPTAやステントの留直を行う、あるいは手術的にシャント流量を減らすバンディング術を行います。これらの適応にない場合は残念ながらシャント閉鎖を行い新たなブラッドアクセス作成を行います。
4.末梢循環不全
シャント血流過剰により末梢循環不全を来している場合をスチール症候群といいます
(図5)。まず薬物治療を行いますが、改善しない場合はバンディング術やシャント閉鎖を行います。
5.感染症
ブラッドアクセスの感染は容易に敗血症につながり極めて重篤となります。6.シャント血管瘤
内シャントの動静脈吻合部のシャント瘤形成や表在化動脈の穿刺部に仮性動脈瘤を形成することがあります。吻合部動脈瘤は急速に大きくなり、皮膚が薄くなるなど破裂の危険性がある場合(図6)や患者さんが美容上の理由で治療を希望した症例では外科的に切除し再建を行います。作成日2004年6月18日
作成者 sasaki