(司会)「どうもありがとうございました。患者というのは贅沢で、質のいい医療、生活というのはこれでいいということはないので、まだまだ東京都の方々にはお願いすることが沢山ありますが、あまり贅沢をいわずにほどほどにという所が肝要じゃないかと思います。さて、今日の予定ですが、25周年の講演会は十二時半まで、先程会長のほうから話のありましたように、講演「災害時に於ける透析医療の確保について」をお願いして、その後、阪神大震災の映画、最後は東腎協の原災害対策委員長からちょっとお話がありまして、午前の部は終わりということになっています。よろしくお願いします。午後の部もありますので、皆さんお疲れでしょうが、リラックスしてお過ごしいただければと思っています。 それでは、引き続きまして講演に入ります。「災害時に於ける透析医療の確保について」東京都衛生局特殊疾病対策課長の東海林様よりお話をいただきたいと思います。ではお願いいたします。
皆さん、おはようございます。只今、ご紹介をいただきました特殊疾病課の東海林でございます。
今日は、東腎協25周年記念という、大変名誉ある記念日にお招きいただき、「災害時に於ける透析医療の確保について」という題で講演して欲しいということで、ちょうど、東京都も腎不全に対する施策と、災害時の対策が現に迫られておりますのでちょうど良い機会でもあり、お話をさせていただきたいと思います。
まず、東腎協糸賀会長さんをはじめ、役員の方々が講演の機会を与えて下さったこと、それから大勢の皆さんが朝早くからご参加いただきましたことに感謝しております。
それでは、あらかじめお配りした資料と、OHPを使いますが、字が小さくなりますので、細かい所をメモしても大変だと思いますので、ゆっくりお話をいたしますから、話だけ聞いていただいて、「なるほどなあ東京都はこういうことを考えているんだ」と東京都の考え方を三、四〇分お話したいと思います。
写真:東海林文夫課長
東京都には15000人ほど人工透析を受けている患者さんがおられると大変多い数ですが、全国では15万人位おりまして、患者の皆さんは、神戸で起きたような大震災が発生した場合、どのように対応しょうか、私達が考えている以上にいつも真剣に考えておられると思います。
震災や、風水災等日本は大変自然災害が多いのですが、何時来るか予測が難しいということですから、日頃の心構えが非常に大切だろうということです。どうしても行政側は組織が大きい分だけ臨機応変さに欠けるという欠点を持ってますので、「日頃守りますよ」ということはいうのですが、「本当に起きたら、守ってくれるのか」と聞かれると、「まあ、対策を練ってます」とかいう返事で、患者さん側には本当に親身になって答えてくれないんじゃないかという疑問が常にあるのかと思います。
ただ、本年三月三十一日に、腎不全対策協議会のほうで、「災害時に於ける透析医療の確保について」という案をまとめたということですから、それに対して素早く、受け答えしなきゃならないことになっています。
腎不全については、前々から私どもの課が担当しておりますので、今回も、「災害時に於ける透析医療の確保について」こういうふうにしましょう、こうした方が良い、こうすべきだとかいろいろと提言するわけですが、災害時の医療、救急体制はどう対応してくれるかは今後検討を進めて行くとして、九月の防災の日迄に災害時におけるマニュアルを作る予定です。マニュアルも二種類、医療機関向けのマニュアルと患者さん向けの心構えをまとめたものです。
アンケートを取りますと、半数以上の医療機関は災害時のために医療機関独自のマニュアル、病院独自のマニュアルを持っていると答えるのですが、残りの四割位は、「まだ十分そこまでのものは作っていません」とのことです。
マニュアルの有無に拘わらず、「非常時にはこういうふうにするんだよ」と院長先生始めスタッフの方々が訓練をしたり、あるいは患者さんに指導しながらやっていれば良いのですが、「何時来るかわからないものにそう簡単には対応出来ない」ということのようですから、やはり、約四割位の所がマニュアルを作ってないということです。
東京都としてはマニュアルのない、どちらかといえば小さな透析の医療機関が該当するんじゃないかと思いますが、そちら向けに東京都の考え方を簡単にまとめた、ガイドライン的なものを作って、更に、各医療機関で少しきれいに、上手に、少し絵とか、分かり易いものを入れるとか、自分達が日頃考えていることを入れるなどして、マニュアル的なものに仕上げてもらえたらなあと思っております。それと同時に、患者さんも本当に災害が起きて、自分の透析を受けている医療機関が、もし透析を受けられない状況になった時どうしたら良いか、どういう医療機関があるかとか、何処に替わりの病院があるかとか、そういう問題はある日突然やって来るわけですから、日頃からどうやれば良いかを準備しておく、覚えておく。災害については準備が一番必要なことじぁないかと思います。
起きた結果に対するよりも、準備をしてるかしてないか、あるいは、日頃からどういうふうにしようか、ああいうふうにしようかと策を練っているということが災害に強いというか、災害に巻き込まれた時に立ち直りが早い、うまく逃げることが出来るんじぁないかと思っています。
それで、日常の生活では、非常持ち出し品の用意、まあ、私達も同様ですが、自分が薬を飲んでいれば、何日間か、一週間分位でも手元にあるものは持って逃げなきゃならない。それから、自宅で腹膜還流、CAPDなんかやっている時は還流液の問題等があったり、透析を受けられますといろいろな合併症がありますので、場合によっては誰かに手伝ってもらわなけりゃならない。あるいは、透析医療機関へ連れてってもらわなけりゃならないということがありますので、日頃から家族だけでは足りないということもあります。そういうときにはご近所の協力を得るとか、やはり、日頃からご近所つき合いを良くしておくということになります。
もし、災害が起きた場合を想定しますと、透析患者さんが自宅にいて災害にあった場合、仕事というか、外出先で災害にあった場合、随分状況がちがってくると思います。自宅で災害が起きた場合、最寄りの透析医療機関、自宅近くの所を探せれば良いのですが、会社であれば会社の近くの所、しかし、実際災害が起きてみますと、必ずしも歩いて行ける近い距離じゃなくて、よほど遠い所になる可能性がありますので、自宅の近くでも、会社の近くでも、うまく外来の透析が見つかるかどうかを日頃から情報を収集しておくということです。何処にはどういう医療機関があるかとか、例えば、新宿区ですと20カ所位ある、区では一番多いみたいですけれども、どうしても、多摩地区よりも二三区内の方が医療機関が集中していますから、もし、多摩地区の方が自宅近くで災害に会われた場合は、透析医療機関が少ない所に居るということになりますので、情報網とか、会員の皆さま方の情報を日頃から収集しておくということです。
それから、次に医療機関の立場からいいますと、日頃は患者さんと職員の方が非常に仲良く、いろんな話をしながら、余裕がありますので、やってもらえると思っていますが、災害が起きますと、皆、あわてますので、日頃のゆっくりとした気分が何処かに吹っ飛んでしまいます。まず透析の最中に大地震が来たりしましたら、医療機器をよほどしっかりと固定してない限り、透析の機械が周りに沢山ありますので、ゆれたり、移動したり、上から物が落っこちてきたりします。片手はシャントでつながっていますから、自分の身を守ることはかなり難しいと思います。ベットに寝てますから、上から物が落ちてくる、片手は恐らく使えませんので、片方の手で防ぐということになります。従って、もし、今透析を受けられている場所を見渡して、上に棚があったり、何か落っこちそうなものがあったら、頭の上には何か置かないように、何とか今のうちから置く場所を変えてもらうとか、しっかりと固定してもらうとか、そういうことは医療機関側にいって改善してもらう。医療機関側は、本当は場所が狭い上に荷物が多く、何とかと思うかもしれませんが、安全を確保するためには是非そうしなくてはならないと思っていますので、もし気づいたことがありましたら医療機関のほうに申し出るのが良いと思います。
大体六割位の医療機関は、患者さんに対し自分達から連絡する方法を持ってますということですが、本当に災害が起きた時は、医療機関側の連絡だけを待っていると、なかなか順番が回って来ないこともあります。患者さんが五〇人いるとして、自分は四九番目のリストに載っていれば、どうしても遅くなってしまうので、医療機関側のほうに積極的に連絡をとる、安否を確認させるということです。電話は使われていますと通じませんので、電話以外の方法、ファックスとか、医療機関のポケベルとか携帯電話、差し支えない範囲で連絡方法を教えてもらっておいてください。 また、公衆電話は医療機関には必ずありますから、医療機関の玄関等に、ピンク電話とか緑の電話がありましたらその電話番号を確認しておくと、いざという時に役に立つかと思います。また、病院の電話番号だけではなくて、透析機関のあるフロアーの公衆電話とか、もしかしたら使えるかもしれませんから。それから、コンピュータでうまく通信が出来るようなシステムがある所はそれを利用するとか、いろいろと方法はありますので、今でしたら連絡の方法がわかると思いますので、是非教えてもらうとか、聞いた方が良いと思います。
あとは、医療機関が独自に協力医療機関を持っているか、ほとんどの所は「持っている」というと思います。ですが、持ってる所が同時に災害に遭う恐れもありますので、必ずしも持ってるからといって安心は出来ません。新宿がだめでも多摩のほうに持っているとか埼玉に持っているとか、横浜に持っているとか、それはそれで良いとしてたどり着くまでに時間が掛かり、必ずしもその病院を推薦するわけにはいかないということもありますので、やはり、医療機関から出ている名簿、会からの名簿、私達も名簿を作るつもりでおりますので、そういう物をもう一度確認して、日頃、自分達が通っている通勤経路とか、近所に透析施設がありましたら、そういう所はできるだけメモをしておくということ、メモした物をなくしちゃうということのないように、私もよくあるんですが、大切な物として肌身離さず持っていてください。
そういうことで、透析を受けている時に災害に遭われる場合と、受ける前にとか、受けた後に遭われるという場合がありますが、東京都は、週三回透析を受けている方が多いだろうと考え、安全の確保という意味で、前回の透析から四八時間以内、中二日以内に透析を受けることが望ましいとしています。
何とか二日以内を確保出来るよう努力するということですが、透析医療機関は透析というふうに表示してない。大部分が内科、泌尿器科、内科が半数以上、六割位ですか、泌尿器科が一割〜二割位、それから外科とかで、透析科とはいっておりません。ただ、ビル診療所では人工透析とか透析室とか書いてありますが、実数をいうとはっきりわからないんですね。ですから、今も、医師会、あるいは会のほうの協力を求めるとか、医師会の名簿も持ってますので、調査しています。 東京都も衛生局で病院の情報ならわかります。病院は開設に当たりまして、都知事の許可が必要ですからわかるんですが、一般の診療所は保健所を通り、市区町村の問題になりますので、小さい診療所になりますと、なかなか実態を把握出来ません。災害が起きた場合は市区町村の情報をまず東京都のほうに集めるということになってますが、足もとですが、新宿区で起きた場合に透析をやっている診療所が何処かありますか、と聞かれても、なかなか私達も答えられないんです。寧ろ、新宿保健所とかそちらのほうに行ったほうが早いということになってます。 実際、都民の方々が都庁に聞けば何でもわかるだろうということで、聞いて来られても、わかる場合と、わからない場合もありますので、不思議だなあと思われるかもしれません。ですから、病院の情報と診療所の情報というのが、結局、片や東京都で持っている、診療所は保健所を通じ、市区町村で持っているという二重構造になっていますので、情報を集めるのに時間が掛かる。その間に、四八時間以内に出来るだけ早く医療を確保しなけりゃならないので、日頃からの情報収集をする。これからやろうと思います。今回のいろいろな提言等もありますが、「災害時に於ける透析医療の確保について」ということが、災害対策、災害医療の中で重要な位置を占めているということですので、透析医療機関の名簿を作って、何処で透析が出来るかをまず作っている最中です。これは秋頃には出来るつもりです。
あとは、阪神のような大災害が起きますと、医療機関がどう対応したかということが、反省材料になるわけです。医療機関側としては日頃からいろんな物を備蓄しています。それから、安全対策もある程度やっていると思います。水の確保、電力の確保も皆さん一様にやってますという返事は返ってくるんですが、はたして、これが本当に役に立つかどうかということになると、どうも阪神の経験からすると疑問があります。 透析に一番重要なものは透析用の水ですが、水道水でも井戸水でも、透析には最低一回、一人当たり120リットル位の水が要る。二度水は使えませんので、使った水は廃棄されちゃいます。相当の水を使います。そのための水槽を持っているとか、透析専用の水槽を備え付けてますよ、という所もかなりあるんです。たしかに、準備はいいと思いますけれど、それは病院の場合は病院全体の水槽ですね。それからビルの診療所ですと、ビル全体の水槽ですね。ですから、医療機関独自のものを持っているといっても、実際一カ所でもパイプが壊れてしまいますと、水は落ち、あっという間に水が無くなってしまう。阪神に限らず、他の大震災の時も、確かに水槽に水は一杯溜まっていたんですが、ゆれますと、火事と間違えてスプリンクラーの誤作動であっという間に水がどこかに流れてしまって、実際は透析用の水だと思っていても、一瞬のうちにカラッポになってしまう。必要の無い所へ貴重な水が一瞬にして流れてしまうということがありました。また、自家発電があっても、水冷式のものですと、冷やすために大量の水が使われたりして、あったはずの水が無かったという現実もあったようです。
電力は線が切れれば使えませんから、思わぬことで、電線の元が切れてしまえば、まったく通じませんのでどうしょうもありません。従って、水と電力というのは、日頃から備えてありますよといっても、実際はあまり役に立たない。
ですから、まず、自分の身の回りを確認して、機械から離れる、離脱して、周りの安全を確認して脱出することです。その時にどういう行動をとるかというと、まず、自分で自分を落ち着かせる方法を何とか探す。とにかく、一瞬の間しのぐ。上から物が落っこちたり、倒れたりする物を必死で支えるということで精一杯のようです。 スタッフのほうも倒れる物を支えたり、ゆれるベットを抑えて患者さんがころげ落ちないようにしたとかは覚えていますが、他に何をやったか覚えていない。ほんの僅かな時間なんですが、ただそういう時にも日頃鍛えていれば、まず、自分が落ち着いて、それから患者さんを落ち着かせるという行動をとったということですから、日頃の備えが一番重要ではないかと思います。
もし、災害に遭われて、自分が受けている透析医療機関が水も来ない、電力も来ないとなったら、そこはあきらめて、災害を受けてない地域の医療機関を紹介してもらうとか、自分で見つけるということになります。ただ、医療機関を移る場合でも、自分はどこの医療機関に行くということを病院側に伝えてもらいたいのです。知らせてもらわないと何処へ行ったか必死で探さなければなりません。自分達の患者さんがどうなったか、医療機関の責任もありますので、一言親戚のある横浜の方へ行きますというとか、メモで伝えるとかすれば、連絡は途絶えません。一番困るのは、医療機関側で何時かは来るだろうと思って、じっと待っていても来ないということです。
講演中の東海林課長
自分のほうから連絡しょうと思えば、電話が通じるようになれば簡単に出来るわけですから、そうするとお互いに安心します。災害時には重要なことだと思いますので、日頃から、災害時に連絡をとる方法を皆さんが受けている透析機関と十分話し合ったほうが良いと思います。勿論、余裕があれば東腎協とか保健所とか出来れば、東京都のほうにも連絡を入れてもらえると一番いい。ただ、電話等も大変なパニック状態ですから、不通になって通じにくいことがありますが、まず、日頃皆さんが受けられてる医療機関とのコミュニケーションをとることです。
それから、災害時に被災しなかった医療機関は自分達が最大努力したらどの程度受け入れられるかということです。透析の回数と一回の時間の最大効果を狙う。例えば、一回四時間のところを、一回三時間にして、週三回やるとすれば、時間はかなり節約出来る。一日二四時間フル回転するとして、日頃から備蓄している物のなかで、医薬品、機材類は一週間位蓄えています。水は二日位しかもたない。電力は自家発電装置があるからといって何日も蓄えは出来ません。また、透析機械にバッテリーが着いていても日頃から充電したり、交換しなければならないということで、それほど、役に立たないのかも知れません。やはり、災害は免れたとしても、安全に透析出来る蓄えは自分達が日頃診ている患者さんの二日〜三日分位なんです。となると、災害に遭われた人を受け入れますと、一日か二日ぐらいしかないということになってくるわけです。 そのために、医療機関側としても納入の業者と、「災害時優先的に自分達のほうにお願いします」ということを約束しておかなければならない。口約束だけですと、いった、いわないということもありますので、きっちりと書面で、「大規模災害の時はこういうことで医薬品をお願いします」ということです。
東京都のほうは、水と電力は最優先で手配しなければならないことになっていますけれど、リストの中に入っていればいいんですが、ビル診療所とか小さな所ですと把握しきれないところがありますので、「電力下さい」といわれても、急にはわからないということがありますので、医療機関側との密着がかなり必要です。都も、新宿区の何とかビルに透析医療機関があることがわかっていれば、連絡が入った時、確認するのにかなり手間が省けるわけです。このようなことから、医療機関側に公表する、しないは別にして、医療機関のリストに載せるよう働きかけていくということになります。
ところで、医療機関のマニュアルは自分達のマニュアルなんで、起きた時のマニュアルで、受け入れをしようというマニュアルはなかなか作りにくいのです。 都内で受けている人は勤務の都合から自宅近くで受けてない人がけっこういます。例えば、横浜の人が都庁の下のクリニックで透析を受けているケースがあるわけです。そうしますと、その人は大災害の時は帰れないことになりますので、透析医療機関としてはその人のために一週間位ベットを提供しなければならない。入院設備がなくても、もしかしたら誰かが一週間位厄介になってる。他の人が透析を受ける間は自分はちょっとイスに座って、場所を譲るとか、廊下に別のベットを持ってくるとかして、急場をしのぐということになりますので、そこまでは診療所や医療機関は考えてないかも知れません。最悪の場合にはそういうことも覚悟してもらいたい、と私達のマニュアルには書いておかなければと思います。
東京で起きたら、東京がすべてやらなきゃということはありません。埼玉県、神奈川県、横浜、千葉市とか大きな所がいっぱいありますので、そういう所にお願いする。災害を免れた地域から通って来る人は、自分の病院が何でもなかったとしても、災害に遭われた人を確保するために、少しずつ段々押せ押せになって、自分はそこで透析を受けたくないといってもお願いします、と協力を求められることもあります。そうしないと、災害の中心部の患者さんをまず透析する。そうして、そこに住んでいる人をやると、遠くから通ってくる人をやる余裕がなくなってくるとなれば、より近い人から先にやって、遠い人を振り分けていくということになります。ですが、医療機関側としては患者さんを振り分けるのはきついんです。もしかしたら、このまま自分の所に来なくなってしまうかもしれない。患者さんを取られてしまうんじゃないかという思いもあります。 日頃から、「いつでも何かあった時にはここに来なくなってもいいんだよ」といわれると、医療機関のほうが自分にあまり一生懸命やってくれないんじゃないかという不信感が出たりして、医療機関もいいにくいのですが、災害の時にはそういう協力を求められるということがあります。
次に、クラッシュシンドロームという皆さんの慢性透析とは全然違う問題なんですが、これは足が挟まるとかの大怪我をして、逃げられなくなる、動けなくなったりすると、挟まった所が壊死におちいって腐ってきます。その時に要らなくなった老廃物その他が排泄されなくなる、排泄の量をこえてしまう。いわゆる急性腎不全を起こしますと、それには人工透析が一番有効ですから、透析を要求されるわけです。日頃透析を受けている所がその患者さんを受けますと、それはかなり重傷の患者さんですから、日頃そこで透析を受けている人がチャンスを逸してしまうということがあるかもしれません。そうすると、「私が日頃使っている所をどうしてくれるんだ」となります。そんなことをいっても始まらない話ですが、そういうことで、透析機関にいろいろ紹介してみますと、「クラッシュシンドロームの時も私達はやれます」と返事は返って来るんですが、実際その施設が小さいところであれば、必ずしもクラッシュシンドロームは腎臓だけの問題ではありませんので、整形外科の問題とか内科の全身管理の問題もありますので、はたして対応できるかなあという問題もあります。クラッシュシンドローム対応というのも災害時医療対策の重要課題なんですが、私達としてはそういう患者さんを受け入れる所は、どちらかというと大病院のような所でやってもらいたいという気があります。あまり小さな所で、日常慢性の透析を受ける人を犠牲にしてまで、クラッシュシンドロームに対してもらうのはどうかなと思っています。
あとはボランティアの方、日本人は心が冷たくなったとかいろいろありますが、災害が起きた時のボランティア、タンカーのオイル漏れの時のボランティア、なかなかまだ日本人もボランティア精神旺盛で、大変けっこうなんですが、ボランティアも大抵二〜三日ですから、医療機関もどう使って良いかわからないということがあります。医師免許証をもっている、あるいは私、看護婦ですといわれても、なかなかお手伝いをしてもらう場面がないということがあります。寧ろそういうところでは、患者さんをうまく誘導するとか、ちよっと足腰の弱った人、目の不自由な人とか一杯いますので、まあ、案内をするとか、それで良いかと思います。
災害が起きますと、いわゆる避難の場所が出来るわけです。避難の場所を決めたとしても、阪神の例を見ますと、やはり、体育館があったりして、学校が一番避難の場所です、グラゥンドが広い、教室も分かれていて、何となく集団で住むというよりはグループで住み分けられるとか、廊下も長く、広いとか、また、学校は適当な距離にあります。小学校でしたら三百メートルとか、中学校でしたら一キロ以内に一校とか、けっこう学校はあります。そういう所に避難所が出来た時に、避難した人が、日頃透析を受けているか、いないか、だまっていれば普通の人じゃないかと健康を害しているかどうかわかりませんので、自分がそういう所に居たら「透析を受けているんですよ」といってもらわないと、周りの人はこんな大事な病気だったのか、と後でいわれても困っちゃうんです。いろいろプライバシイの問題があるかもしれませんが、「透析を受けているので、二〜三日は良いとしても三日目には透析を受ける必要があるので、早く紹介してください」とか、そういうこともキチント伝えることです。
災害の時は、自分の健康というか、自分の安全は自分で守る、ということですので、是非そういうときは医療の相談だけじゃなくて、「私達は透析を受けているんで、医療機関を探したい」ということをキチンと申し出る。そうしますと、透析の必要性はわかりますので、周りも一生懸命探すわけです。医療機関が作ってくれた透析カードとか、自分で作っているカードとかで、透析の内容を誰が見てもわかるようにしておいてくだきい。透析の内容としては、どの位の回数、いつ頃から始めて、いま何処何処に通っていて、一回何時間というようなことです。透析の液とかはメーカーによって多少ちがいますが、素材、組成は殆ど同じ傾向にありますので、それはわかると思います。 あとは重要な合併症、透析を受けますと、心臓が悪いとか血圧が上がっているとか、合併症により目が不自由であるとか、そういうことがありますので、ちょっと見たらわかる程度のものは作っておいたほうが良いでしょう。 医療機関のほうも指導しているようですが、指導していない所もけっこうありますので、もし、皆さん方が今通っている所でそういうことがなされていないなら、自分のことですから透析の間にメモをするとか、カードを作ってもらうとか準備しておけば良いと思います。
災害の時どう対応するかは起きてみないとわからない、というのが本当のところかもしれません。ただ、いろいろな例を見ますと起きる前に心構え、日頃の準備、訓練等を練習しておくだけでも随分違う。いわゆる、イメージトレイニングですね。オリンピックで負けた人はイメージトレイニングが悪いとか、あがり性だとか、本番には弱いとかよくいわれていますが、いろんなことで、精神的に「頑張ろう、頑張ろう」だけじゃなくて、具体的な場面を想定しながら起こりうるものは出来るだけ避ける、起きたらどうするとかを心がけてもらいたいと思います。 あとは、時間もございませんが、地震は強震で相当揺れます。壁に割れ目が走る、煙突が、墓石が倒れるとかで、烈震では家屋の30%、30%といいますけれど、私達は家屋というと、木造家屋のイメージがあるんですが、実際神戸の例を見ますと、木造に限らずけっこう古い建物は相当倒れてます。強震、烈震とか分類しても、実際は揺れる方向とか場所によって随分違う。また、建物内の設備にしても、揺れる方向によって、倒れかたが随分ちがう。ですから、自分が透析を受けている場合、頭の上にないとしても、揺れ方によっては離れた所から倒れてくる。機械が動くとか走るとか、ストッパーが着いてないと大きく動いてしまう。ですから、大丈夫だとは思いますが、透析を受ける時にはベットがぐらぐらするようでしたら、ストッパーをお願いする。ただ、いつも自分でやってしまうと、職員は気が付きませんので、「お願いします」と職員にいうことが大切です。
昭和五十三年の宮城県地震、震度五で強震だったということですが、スタッフがやったこと、一番はベットを支えた、二番目は控え室に水の供給装置を見に行った、三番目は窓を開けた、四番はガス、電気、ボイラーを見に行った、五番目は何をやったかわからない、となっています。 何をしたかわからないということは、何かやったのだと思いますが、全然記憶にないということです。だいたい、返血をして、患者さんを建物の外に出したのは発生してから十分間位、十分が長いか短いかはそれぞれの考え方だと思いますけれど、本当に短い間ですが、それでも何をしたか覚えていないというのです。 それから、患者さんの対応は一つ、逃げることが出来ない。当然ですね、機械がくっついてますので、二つ目、運を天にまかせた。これは大変けっこうなことだと思います。開き直って上から物が落っこって来ないことで精一杯。次に、家族、家のことを考えた。あとはスタッフが居るから安心だ、もうダメだと思ったがジットしていた。早く逃げたい、押さえるのが精一杯、声が出なかったということ等ですが、結局、スタッフが一生懸命支えたり、声を掛けることによって、患者さんも安心した。安心したのは十分間位、もう少し短いかもしれません。 幸い医療機関は防火設備がキチンとしていますので、案外火災になることは少ないんです。
神戸の場合、大阪と明石の間で地震があったのですが、メーカーの方が、災害で使えなくなった医療機器を保守、点検するのに、東京のほうからも応援に行って、十七日に起きてから、最大努力して一週間掛かったということなんです。この会社はどこかわかりませんが、関西にいるスタッフ全員で足りなくて、名古屋から行ったり、東京のほうから応援に駆けつけたとか、結局一日目は状況を確認するのが精一杯、二日目に行って、一日の修理件数が三三件あった。そして一週間掛かってやっと復旧したということです。もしかすると透析機関が一週間はダメということになります。ですから、ダメな所にはこだわらないで、他の施設を一生懸命探すということです。一週間過ぎて連絡して、元の所に行けるようであれば、安心できると思います。
それから、どういうふうに足を確保したかしいいますと、一番多いのは自衛隊のトラックを使ったようです。二番目は自家用車、他に救急車、病院の車、電車、バスや自転車、バイクなど、自衛隊のトラックを使ったのは病院の指示で病院の患者さんを運ぶということで、自衛隊のトラックが使えたのかも知れません。 病院については、自分で探した人は知人、親戚、以前より、消防署、電話帳、患者機関誌、他施設より、自衛隊、ラジオとかありますが、自分で探した人は以前より探していたという人が案外多いですね、10人いますから、心構えがしっかりしている感じですね。それから、消防署に聞いた、電話帳、電話帳にはいろいろなことが書いてありますから、慌てている中で電話帳で良く探したと思いますけれど。それから、 患者の会の機関誌、他の施設より、病院の紹介ですと大きな所に頼めますが、自分で探すのは難しいことです。そういうことで、日頃から対策を練っておいてもらいたいと思います。 それから、最後になりますが、これは、このデータを作った病院の松下さんという方で、中規模な病院だと思いますが、透析患者さんが299人。その内、274人が通院、25人が入院であったということです。自宅が全壊した人が46人、その内27人が持ち家だということです。
被災地の真ん中に居ますと避難所に行った、親戚の家、知人宅、入院しちゃったとか、元の所に居られたのは半数で、他の方は大変な目に遭われたということです。病院の中にも寝泊まりせざるを得ない、帰る所も壊れてしまったという場合には止むを得ないということもありますので、日頃から、救急災害に備えてはある程度準備をしておかなきゃならないかと思ったといいます。幸い阪神の時には透析を受けられなくて亡くなったという方は居られなかったと聞いています。聞いているというだけですが、それなりに、皆さん苦労して、臨機応変に透析を受けた結果であって、必ずしも行政がしっかりしていたということではないんじゃないかなと思っています。
今後、災害時の医療について、特に透析医療について、皆、病気は同じだという考え方はあるかもしれませんが、そういうことでは何もできないので、出来るところ、必要のあるところから確保していくというのが、行政のやり方じゃないかと思います。平等、平等といっても、全員をおしなべてやるのは難しいと思います。ただ、困っているのは明らかなんで、対策協議会の意見、阪神淡路大震災等を踏まえまして、東京都としても一生懸命対策を立てて行かなきゃならんと思います。
こういうことになりますと、患者さんの団体との協力が重要になってきますので、東腎協、糸賀会長始め会の役員の方といろいろと打ち合わせる機会もあると思いますので、皆さん会員の方々の意見がその中に少しでも入れば、よりよい対策が出来るのではないかと思います。 ちょっと、時間をオーバーしましたが一方的にお話して申し訳ありませんが、これで終わりたいと思います。(拍手)
司会「ありがとうございました。大変きめ細かい内容で、皆さんも理解されたと思います。」
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