「透析の自己管理と検査データ」
講師:東京医科大学・腎臓科科長人工透析部部長 中尾俊之教授
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皆様こんにちは、中尾でございます。本日は第28回東京都腎臓病患者連絡協議会総会、このように盛大な会を催されまして誠におめでとうございます。
発足が1972年とうかがっております。1972年頃より2〜3年前から透析の医療というものが健康保険で支払われるようになりまして、それから日本で一段と普及してきたわけであります。私もその当時からその人工透析の治療に携わってきたわけでありますけれども、一番最初にその透析の治療が患者さんに行われたのが1960年代だと聞いております。
そのころは戦争でけがをして急性腎不全になって命を落とされる方を少しでも救おうということで、試験的に始められたと聞いております。その後、慢性腎不全に試されるようになって、人工透析の治療を繰り返し一定の間隔で行うと、患者さんはお元気になられるばかりでなく、その後普通の人と同じくらいに仕事もできるようになるということを、医療者自身も患者さんも新たに体験してこれはすばらしい治療だということになって、その後発展してきたと聞いております。
そのようなことから、透析の治療の目的・目標というのも時代とともに少しずつ変わってきたように思います。一番最初は腎不全によって尿毒症になって命を落とすのを少しでも救おう、ということが目標だったわけですけれども、その後1980年代からは、普通の人と同じように社会復帰していこうというのが目標になってまいったと思っています。そして1990年代からは、それだけではなくてその方の腎臓の力はなくても、持って生まれた寿命、天寿というものを全うできるような、そういうところにもっていこうというのが透析治療の今、我々のそして皆様の目標になってきていると感じるわけです。
1972年当時の日本全体で透析を受けている方というのは、2万人位だったように思います。それが1999年度では、約20万人と大きく発展しているわけです。ちょうど日本人の大体500人から600人位に1人の方が、透析を受けておられるという状況があるかと思います。ただし60歳以上というようなことに区切ってみますと、200人に1人位になるのではないかと思います。ですから透析を受けておられるといっても決して特殊な状況ではなくて、普通の人並みに社会生活を送っておられる方がたくさんいらっしゃるということになります。
それで72年当時を振り返ってみてよく思い出してみますと、いろいろ進歩してきた、あるいは変わったことがあるように思います。まずは透析を受ける方の元気のよさが全然違う、あとは新規に透析を受けられる方の平均年齢が大体60歳ぐらいと上がっています。そのほか糖尿病性腎症の方が増えてきています。それから透析の時間が随分短くなってきていると思います。その裏にはいろんな進歩があるわけですけれども、まずはダイアライザーの性能がよくなってきています。
72年頃は、除水量は1時間に800ミリリットルとかそのぐらいが限度だったのですけれども、今のダイアライザーですと2リットルでも3リットルでもどんどん取れる。ただし1時間にそんなに取ってしまっていいかどうかというのは別問題ですけれども、そのほか老廃物の除去効率も一段と上がっております。そしてダイアライザーの滅菌法が随分よくなっています。それからベッドサイドに置いてある透析装置が非常に性能がよくなってきております。透析液も改良が加えられて、以前は酢酸が主流でしたが、今は重炭酸に置きかわったり、あと透析液の中身の組成濃度などがかなり改良されてきているということがあります。そのほかに新しい薬がどんどん出てきて、健康維持のために役立っていると思います。
戻るそれで本日のテーマの「透析の自己管理と検査」ということになりますけれども、とかく検査というと採血の検査というようなことに頭が行きがちですが、透析を受けている方の一番大事な検査というのは血圧の検査ではないかと思います。それでWHOの基準ですと正常な血圧というのは大体上が110〜130、下が70〜85で、140〜90以上は高血圧というふうに定義がされておりまして、血圧はなるべく低い方が心臓とか脳血管障害の病気にかかりにくいわけです。
透析を受けられている方は血圧の高い方が多いのですけれども、透析後にはかなり正常になる方も多いのではないかと思います。体内に塩分と水分がたまってくるということが高血圧の一番の原因になります。
高血圧では脳卒中や心臓の障害、あるいは動脈硬化が進行する危険が高ければ高いほどリスクが大きくなることが世界中の統計のデータから出ております。ただ、高血圧だからといって目の前ですぐに脳卒中になったり心臓障害になるわけではありませんけれども、長い間高血圧が続いておられる方はかなりこういうリスクが高まってきているということが言えるかと思います。ですから、血圧が高い方がいらっしゃいましたら、まずは塩分と水分を控える。それだけではなかなか下がらない場合は、血圧のお薬を処方してもらって忘れずに飲むということが、まずは一番大事かと思います。
そこで水分と塩分が体の中にどのくらい貯まっているかという検査ということになりますけれども、これは体重を計ることが一番いい指標になります。そのほか血圧が上がるとか心胸比が増えるということが体の中の塩分と水分の貯まり具合を検出する三つのパラメーターになっているわけです。血液検査のナトリウム濃度というのは塩分のとり過ぎ、多いか少ないかというのは決してあらわさないのです。透析から透析の間の体重の増加を、大体5%ぐらいに抑える、50キログラムの方でしたら、5.5キログラムぐらいに抑えるのが理想的なのですけれども、そうもいかないという方が多いかなと思います。水分をとらないようにすることが一番なんですが、ただし塩分をたくさんとってしまうと、体の仕組みで自然にのどが渇きますので、知らないうちに自分であんまり飲んでいるつもりのないうちに、水分が体に入ってしまっているというような循環になります。
ですから、まずは塩分を抑えるということが、基本中の基本かと思います。それでも水分をとりすぎると逆に不思議なもので、塩気のものがとりたくなるということがありますので、水分と塩分はとにかく抑えていくということが大事です。
心胸比は、心臓の幅と胸の幅を測りましてその比を見るわけです。通常では大体40〜50%ぐらいということになりますけれども、胸の幅が小さい方は、これが大きく出る場合もあります。胸のレントゲン検査は主に心胸比、体の中に塩分・水分の過剰が残っていないかどうかを、検査しているということになります。そのほか、肺の病気とかそういうものがないかどうかも、もちろん一緒に見るということになります。
検査として一番大事なのが血圧の検査と、その次に体重の測定ということ、あるいは胸のレントゲンによって心胸比を測るという、割と日常行われている検査が、基本で一番大事だと思います。
戻る次に、腎臓が悪いということになりますと、終末代謝産物いわゆる老廃物、そういうものが貯まってきますので、それを除去するということが、透析治療の大きな目的になっているわけです。それで主な検査項目としては、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、β2ミクログロブリンというものが検査されるかと思います。
尿素窒素は、我々が食べる物の特にたんぱく質、つまり食事から半分、体の中から半分ずつといった格好で出てきます。ですから、たんぱく質を多くとり過ぎてしまった場合は増えてしまうということになります。
クレアチニンは、これはあまり食事に関係なく、自分の体の筋肉から、一定の割合でいつも出てきているというような老廃物です。そのほかに尿酸も、食事から出てくる分が多いということになります。そのほかβ2ミクログロブリンというのは、透析を長期にされている方の場合、これが関節にたまって、アミロイドーシスというような余病を起こすということで注目されてきています。これも食事と関係なしに、一定の割合で体の中から産生されてきます。ですからこの中で自己管理ということをいいますと、尿素窒素が自己管理の面で血液検査に反映されてくる老廃物かと思います。
栄養の状態が過剰というのは、例えばうんと太ってしまったという状態ということになります。不足という状態は、食べ方が少なくてやせてしまう状況になります。一般の社会人では、過剰な人が多くなって問題になっておりますし、特に欧米人では太り過ぎということで問題になっています。そういう栄養の過剰では、動脈硬化性の疾患などが増えるし、心筋梗塞の率が増えるとか、そういうリスクが高まるといわれております。
でも一方、栄養の状況が不足になってきますと、やはり脳卒中・脳出血が多かったり、あるいは感染症とか病気が増えるということになりまして、太り具合がちょうどいい状況というのが病気になる率が低いということが、確かめられておるわけです。
大体透析を受けられる方は、過剰という方は少なくて、長くやっている方ほどどうも栄養状態が低下しがちになってくるという方が多いように思いますので、なるべく栄養の状況を正常に保つように努力されることが、健康維持ということで大切ではないかと思います。
その意味で、一つの栄養状態の指標としては、一番は体重ということが指標になるわけです。体重が時々、いわゆる健康な体重とドライウエイトを混同されていらっしゃる方もいるようにお見受けしますが、いわゆる標準体重というのは、その方の身長に合わせた肥満でもやせでもない健康的な体重をあらわすわけです。
そのほかドライウエイトというのは、透析の時の除水量を決める基本体重で、体の水分と塩分の量がちょうどよい状態の体重のことを指しています。透析間の体重がふえるというのを気にするあまり、食べ物を制限してしまいがちな方もいらっしゃいますので、透析間の体重のふえ方は五%以内が理想とは申しますけれども、栄養を十分とらないで五%になっても意味がありませんので、多少それをオーバーしても栄養が十分とれる方が長い目で見ればいいような状況もあります。世界各国でどういう食事がいいかというようなことはずっと長年議論されてきておるわけです。
そのほか、血液検査ではアルブミン、あるいはトランスフェリンという検査があります。それでアルブミンの量は、3.5グラム/デシリットル以下ですと、少し栄養状態が悪いのではないかというふうに考えられます。そのほか、トランスフェリンという検査でも栄養状態はある程度判定はできるわけです。
栄養状態をよく保つということが、血液中に貯まったいろんな水分、塩分や老廃物を取るということの次に非常に大事で、クローズアップされてきているわけで、それで栄養状態の良し悪しをどうやって判定するかということが、特にヨーロッパ・アメリカなんかでも大きく取り上げられてきています。
特に日本の透析を受けられている方は非常に健康的な方が多いのですけれども、アメリカの場合は、かなり健康状態がよくないということがありまして、どうしてそんなに悪いのだろうかということからいろいろ検討した結果、やはり栄養状態が大きく影響しているということがわかってきているわけです。
それでとにかく、エネルギーを十分にとるということが、とても大切なことなんです。ただし、透析の間などの体重の増えというのを心配するあまり、本当は水分と塩分を控えればいいのですけれども、ついでに食事の量まで控えてしまわれる方も見受けますので、そうしますと栄養状態に響きます。
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血液のカリウム値が高い時の7つのチェックポイント |
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ですから、常にご自分のカリウムがどのぐらいになっているかということを気にされて、カリウムが5.9以下の場合、これはもう、まず絶対安全ですから何の心配もありません。ただし6〜6.4位のときはこれ以上にならないように黄色信号、注意すべきというふうに思います。6.5以上のときは、これはひょっとしたら、いつでも心臓停止が起きてもおかしくないような状況に近いということがありますので、大変危険な状況ということになります。 皆様、ご存じと思いますが、カリウムが多く含まれている食べ物、野菜とか果物類ということはよく認識されておるようですけれど、意外と芋とか納豆、煮豆とか、あるいは栗とかピーナツみたいな豆類、こういう物もカリウムが多いので、うっかり過剰に食べ過ぎないようにすることが大切かと思われます。あるいは肉や魚なども多くとり過ぎると、やはりカリウムが多くなります。よくあるのが果物は食べていませんけれども、生ジュースはたくさん飲んでいる、あるいは野菜の生ジュースもたくさん飲んでいらっしゃったという場合もあります。あとは食事の全体の量ですね、食事を食べなければ、カリウムが上がらないだろうというとそうでもなくて、糖質が少ないと自分の体の細胞の中からカリウムが自然にわき出てくるということもありますので、意外と糖質のとり方が足りないと血清のカリウムが高いということも出てきます。
リンコントロールのためのステップ |
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ここに示しましたように、たんぱく質の多い食品はリンも多いわけです。ですから米なんかはたんぱく質も少ないしリンも少ないのですけれども、マグロなんかの場合はたんぱく質も多く、リンも多いというような関係になります。ですから、たんぱく質の多い食品というのは必ずリンも多いということになりますから、たんぱく質はできるだけ、たくさんとればいいかと思うと、そういうわけにもいかないということになるわけです。ですから、適正な量のたんぱく質をとるということは、リンのコントロールのためにも非常に大事ということになります。
それから、カルシウムが不足するのではないかといって、気になさる方もいらっしゃいますけれども、カルシウムの多い食品は、やはりリンも多いということになります。例えば乳製品ですね。牛乳などは大変多いですし、チーズなどもそうです。あるいは煮干しなどもいい例ですけれども、カルシウムを補おうと思ってこういう物を食べ過ぎてしまいますと、リンも多くなってしまうということがあります。やはりその辺はうまくバランスがとれるように、担当の先生、あるいは管理栄養士にご相談されるとよろしいのではないかと思います。
これが30〜35%に維持を目標にして、病院ではエリスロポエチンの注射が行われているということになります。あまりに濃くし過ぎてもシャントが詰まりやすくなったり、血圧が高くなりやすくなったりする方が出ます。あるいは30%を切るような状況だと血が薄すぎて、体力的にも落ちるということになる方が多いものですから、このぐらいを目標に大体エリスロポエチンの注射で調整されているかと思います。
ただし、エリスロポエチンの注射は鉄分が足りないと効き目が出ません。それは血清鉄の飽和率とフェリチンという二つの項目で検査されております。飽和率というのは20%以下、またはフェリチンは50以下ですと鉄欠乏というふうに判定されますので、鉄剤の注射が行われるということになります。鉄分は、大体は透析の最後、あるいは透析の最中に注射で行われることが多いわけですけれども、よく食事でとったらどうでしょうかという話になるんですけれども、食事で鉄分を補給するのはまず無理であると考えておかれた方がいいかと思います。あるいは飲み薬はどうかということになりますけれども、これもなかなか効果が出にくいので、注射で受けられた方が効果もよろしいかと思います。
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糖尿病の検査 |
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血糖値は食事をしないと下がっていますし、食事をすると二時間ぐらいで上がりますから、常に動いているわけですが、空腹時で70〜110ならまず正常ということで、大体皆さん透析に来られるときは食事をしておりますので、もうちょっと高いということになります。ただし60以下ではもう低血糖ということになります。
ヘモグロビンA1Cという検査は一カ月間に平均して血糖のコントロールが良かったか悪かったかをこれで判定するわけです。ですから、たまたまその日に測った血糖値が低いからといって、逆にたまたま測った血糖値が高かったからといっても、こちらがよければいいわけです。ですからこちらの方の検査の結果をよくするように普段からの血糖コントロールに気をつける必要が出てくるわけです。それで、ヘモグロビンA1Cという検査が長期間8%以上ですと糖尿病からの合併症のリスクが異常に高くなってくるということですから、気をつけなければいけないと思います。7%以下に抑えておきたいと思います。
副甲状腺機能 |
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そのほか最近、肝臓の障害を起こすことが新聞などで話題になっていますけれども、肝臓は腎不全とか透析だけでは決して悪くなりません。けれども、例えば肝炎のウイルスに感染するとか、そのほかいろいろな肝臓を悪くするような、お酒を多量に飲み過ぎてしまうという方はあまりいませんでしょうけれども、そういうものとかによって悪くなってくるということがあります。GOTとかGPTとか、こういう検査は肝臓が悪くなると数値が上がってくるわけです。ただし肝臓が悪くなければ、どんなに長く腎不全、あるいは透析というような状況であっても、この数値は正常になっております。それでHBとかHCVというのは、これはウイルスに感染しているかどうかというのを調べる検査です。
戻る良好な透析生活を送るための7カ条 |
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そういうようなことで、これはまとめですけれども、良好な透析生活を送るための今日のテーマですね、「元気で健康でいるために最も大切なことは何でしょうか」と。それは「十分に透析を行うことと、自己管理をきちんと行うこと」と言われております。まさしく、「決められた治療、透析時間とか回数をきちんと受ける」ということが、まず大切。それで塩分水分は指示量を守ること、第二番目ですよね。三番目としては食事療法を正しく行うこと、これは栄養状態の維持のためにも非常に大切です。それから、薬は忘れずに服用すること。うっかり忘れてしまうということがないように忘れずに服用すること。日本ではまだたばこの害というのがそれほど大きく取り上げられないのですけれど、アメリカなんかではたばこを吸うと法律で罰せられるような州もあるそうです。ですからたばこはできたら吸わないようにする。それから睡眠、休息は十分にとって適度な運動、決して無理はいけませんけれども、できたら体を動かすということが大事かと思います。良好な透析生活を送るための七カ条として、今さらながら皆様の前でこんなことをお話しするのはおこがましいかもしれませんけれども、まとめさせていただきました。
透析という治療も28年前から見るといろいろ進歩してきておりますので、今後もさらに将来に虹が見えるように、そういう希望を十分に持てますので、今後また私どももいろいろ努力したいと思いますので、どうぞ皆様もご協力いただいて、そして、今後もよりよい透析生活を送られることをお祈りいたしております。
戻る 東腎協 2000年7月25日 No.134最終更新日:平成13年3月16日
作成:Tokura