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東腎協第29回総会記念講演

21世紀 腎不全治療の展望
― 合併症 と その予防 ―

講師:東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター 血液浄化部門 秋葉 隆 教授

秋葉隆教授の写真

   ご紹介いただきました秋葉でございます。本日は「21世紀腎不全治療の展望」と題して、お話をさせていただきます。本年1月16日、東京女子医科大学に移りまして、血液浄化部門、一言で言えば透析室の担当をさせていただいております。
 これまで24年間にわたりまして東京医科歯科大学で、その間には武蔵野赤十字病院・取出協同病院・横須賀共済病院で、腎臓の診療をしておりましたので、お会いしたこともあるかと思います。

はじめに

 本日は「合併症」と「21世紀」の話というご注文です。これから、「腎不全医療」という大河は一体どのような方向に流れていくのか、その流れの中で、21世紀のうちの、現在私たちが生き残っている、近々25年ぐらいの話を中心にすすめたいと思っております。

 21世紀は2001年元旦から始まったのですが、2000年になったとたんに21世紀の話がされて、いまさら「21世紀」は話題として、もう時代遅れのような気もしないでもありませんね。

 現在、透析療法が実用化しまして大体30年たちました。透析療法がこの年に始まったと明確には言いがたいところがあります。一言で言えば、医療行為として始まったのは朝鮮動乱の時ですね。ナパーム弾にやられて急性腎不全になった患者さんを助けるのにインドネシアや佐世保の軍病院で使ったのが、臨床に広く取り入れ始めた最初です。

 それからは50年。保険診療として、一般的に慢性腎不全に使われるようになってから30年です。この30年間の歴史の中で、どのように透析医療が進んできたか考えると、初期は「とにかく命を助ける(救命)」。これが最初の大きな問題で、透析で「1週間生きた」、「1カ月生きた」、「3年生きた」、という時代がしばらくございました。その後、元気になった方々に、どうやって社会復帰していただくか、社会に診療の成果をフィードバックしていこうか、という話になりました。その後、最近の問題点としましては、「頑張って社会復帰する」ということだけではなく、その患者さんがいかに楽しく、そして充実した生活を送っていただけるか、というところまで、治療の目標がどんどん変容してきたということです。

 皆様の医療に対する要求には我々医療者にとって果てしないと感じる場合があります。すなわち、昔を知っていらっしゃるみなさまには「昔を振り返ってみれば今の腎不全医療は、少しはよくなった」と言っていただけるのではないかと思います。同時にまだまだ不十分であるということも、我々診療にたずさわる者として自覚しておるところでございます。

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 質的変化ともう1つ大きな違いが、量的な変化でございます。縦軸が5万人、10万人、15万人、20万人。グラフの基点が1968年ですが、このころ保険診療が始まりまして、透析患者数は、倍々と増加しました。伸びました。昨年(2000年)末には、「20万を突破しているだろう」と言われています(20万6千人、日本透析医学会調べ)。おととし(1999年)の末の統計で19万8000人いらっしゃいました。毎年大体3万人の患者さんが透析を開始され大体1万人弱の患者さんがふえている状況です。

 その中で5%がCAPD、残りの95%が血液透析をやってらっしゃる状況です。ですからこの68年当初の全国で数百人の患者さんしかいらっしゃらない、施設としても数十を数えるだけというような時代と、今3000カ所の透析施設があって、「あらゆる市町に透析施設がある」「家から車を1時間も飛ばせば、透析室がある」という状況まで、いわゆる普及という面ではかなりのところまで充足した状況です。

 日本人の平均年齢もあがりまして、80才を突破しようとしている状況ですけれども、透析患者さんが透析を始める年齢を見てみますと、83年当初40代で透析を始める方が多かったわけです。現在は63才です。今、透析をしている患者さんの平均年齢を見ても59才で、「透析に高齢者ばかりで、若い人がいなくなった」と言われます。すなわち、透析治療は年齢を経た方の病気であるとの性格が強くなったわけです。これはある意味では喜ばしいことです。どうしてかというと、それだけ、透析に導入される年齢が後になっているわけですから。

 私は、内科の出身です。内科医が腎炎、高血圧、糖尿病の患者さんを診るときには、「できるだけ永く腎臓の機能を維持しよう」、残っている腎臓の機能、すなわち「残存腎機能をなくさないように」治療をします。その結果として診療期間が延びる、結果的に、初診から透析導入までの期間が延びる。ということは、当然、高齢になってから透析が始まるということです。逆に透析室からみますと、高齢の患者さんばかり導入される。うれしくない。なぜかと言うと、年齢を加えますと、それなりの合併症をもち、それなりの体力の限界がありますから、非常にお世話をすることがたくさんある。高齢化現象が、透析医療にとって大変な重荷になってきている状況です。

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糖尿病性腎症が原疾患の1位に

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 もう一つ問題点がざいます。昔、腎不全といえば慢性腎炎でした。原因疾患の上位は、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、腎盂腎炎で、糖尿病がほんの少し、それから多嚢胞腎と腎盂腎炎、半分以上が腎炎だったわけですね。それが、あっという間に、約3分の1が糖尿病、1番の原因が糖尿病になりました。2番の原因が腎炎、3番目から細かくなりまして、腎硬化症(高血圧による腎不全)、多嚢胞腎、腎盂炎です。すなわち糖尿病の患者さんがものすごくふえてきたということでございます。

 これも「糖尿病がふえてこれは大変だ」と、「これは困ったことだ。糖尿病の先生しっかりしなさい」。皆さんどう思いますか。糖尿病の先生がサボり始めたからこういうことになったと。私、糖尿病の先生ではないですから、皆さん勝手に言ってください(笑)。これは、糖尿病の先生が一生懸命頑張った成果なんですね。この中には糖尿病性腎症の患者さんもいらっしゃり、私の今の言葉に対して、ものすごく反発されるかもしれません。個々の患者さんについて、私は、わかりませんけども、一言で言えば、昔は糖尿病の患者さんは、透析までたどり着かなかったんです。反語的な言い方ですが、しっかり治療しないと糖尿病性ケトアシドーシスという体が酸性になる病気で不幸な帰結になる。糖尿病性腎症は、10年、20年と、糖尿病の患者さんが生き残ったときになる病気ですね。だから糖尿病の先生が一生懸命頑張って、糖尿病の患者さんが長生きできたので、この合併症がふえてきたということです。ですからこちらの高齢化も、それから糖尿病がふえたことも、(一つは日本が豊かになってご飯がいっぱい食べられることもあるでしょうけれども)医療の成果のたまものであるとも言えます。

 もう1つの辛いお話をします。死因です。昔から、心不全が一番多かったのです。エリスロポエチンが注射できるようになってから少し減りました。新しい治療が出ることによって、死因が変わるということが1つあるわけです。

 我々診療に携わる者として、一生懸命新しい治療を開発していくから生存率がよくなるだろうと期待するわけです。個々の患者さんの話ではございませんけれども、大体、今、透析を受けている患者さんの、8〜9%が毎年お亡くなりになります。この率は、ずっと変わらないんですね。このデータをご覧になると医者はサボっている、ちっとも改善されない、とお考えだと思います。

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死亡率は同じでもリスクは減っている

 けれど、透析を受けている患者さんはどんどん高齢になっています。40歳の方と80歳の方を比較して、どちらが死ぬ率が高いかというと、80歳の方ですね。年齢が1歳上がるにつれて、死亡のリスクが上ってきます。糖尿病という合併症が多い病気と、多嚢胞腎という合併症の比較的少ない病気で、腎不全になったら、亡くなる率も違います。そうしますと、死の危険性(リスク)を統計的に処理して、どのくらいリスクが減っていくか増えていくか、調べた統計があります。1983年の1年間で亡くなるリスクを1とします。翌年、その翌年、翌年と調べていきますと、95年には0.5、すなわち医療の進歩によって同じ条件の患者さんは、死ぬリスクが半分に減った。それだけダイアライザー、合併症の治療、エリスロポエチンも含めて、全体として危険度は半分になるほど透析の診療の内容はよくなっている。しかしながら、高齢者や、合併症の多い方が増えた結果として、毎年8パーセントの患者さんを失っている。これが透析療法の現状です。

 今のは日本の話でしたけれども、アメリカで調べても、同じことです。アメリカでは、何と84年で、透析患者さんで35%の方が毎年亡くなります。この数字、わかりますか。日本で8〜9%、11人に1人ですね。アメリカでは3人に1人の患者さんが、一年たったらいなくなる。ですからアメリカの透析医療を日本に持ち込まないようにしよう、とよく言いますね。これがアメリカの現状です。さすがにアメリカも、日本の統計と比較して、NIH(合衆国厚生省)の皆さんも、世界に誇る強国アメリカとしては、捨てておけない大変な事態だということで、いろんな改善計画を立ち上げました。その結果25%、3人に1人が4人に1人までよくなりました。でもまだ今の時点で日本の3倍ですね。

 アメリカにおいて、どういう透析医療が行われているかというと、1回に3時間強の透析時間、それからQB(血液流量)は300―500ml/分、時間を倹約するため、非常に高くしている。そして、高いダイアライザーは再使用します。。患者さんは透析の予定を守らない。「患者さんの自由を尊重する」という意味ではいいのでしょうが、全体として、透析の量と質が落ちている。それが死亡のリスクの高い大きな理由だろうと私たちは考えています。経済的な理由からダイアライザーのリユース(再使用)もやめていません。それでは、このような教訓をふまえて日本の透析医療はどうしたらいいか、考えていただきたいと思います。
 病気ごとの生存率の違いをみてみましょう。慢性糸球体腎炎の患者さんは、11年たっても5割以上の患者さんが生存していますが、糖尿病の場合は10%強になっています。原疾患によって、変わってくるということです。

 ですから、どんな病気で腎不全になったのかということを、しっかり診ないといけない。それによってある程度の危険が予測されるので、どれだけ一生懸命合併症の予防をしなくてはならないか、当然自覚される。診断に応じて強い診療をしっかりやらなければいけない。

 私どもの女子医大腎臓病総合医療センターは、透析だけではなくて移植も行っています。1999年、日本の年間の移植数は677例でございました。生体腎は523例、死体腎が154例。死体腎のうち心停止後は146例、脳死が8例でございました。このうち女子医大で約100例、日本での腎移植のうち6分の1が女子医大で行われている、ということでございます。

 私ども、「腎不全医療の中で、移植医療をしっかりと伸ばさなくてはいけない」と、皆様方も感じられ、私どもも、増やすために努力しています。移植の重要性については、議論の余地がないので本日はこれ以上ふれません。

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 科学技術庁(現*$9340文部科学省)が主催した将来技術調査では、2007年にはエイズワクチンができる。2011年には動脈硬化、13年にはアルツハイマーの原因がわかって、ガンの5年生存率が70パーセント以上になるというような技術予測がされました。腎臓関係では、2015年には埋め込み型の人工膵臓、人工腎臓が実用化されるだろう。2013年には細胞のガン化機構が解明されて、18年には老化の仕組みがわかる。

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後14年で埋め込み型腎臓の実用化か

 ここで言いたい事は、あと14年たつと人工腎臓が実用化する可能性があると、科学者たちがアンケートで答えたことです。では、透析はあと16年で終わり、17年目からは人工腎臓で生きる人生設計をたてればよいのかという疑問に答えることが私に課せられた課題と考えます。

 最初に気づいていただきたいことは、透析が必要となる時期には、悪くなっているのは腎臓だけではないことです。もっともわかりやすいのは糖尿病性腎症です。透析導入の頃には腎症だけだなく、網膜症による失明、神経症、糖尿病性壊阻などで、体は傷だらけなので、人工腎臓をつけても長生きできません。

 そこで、原疾患の進行予防が大切です。慢性腎不全の原疾患の中、糖尿病の増加が大問題です。ふえた理由として、生活習慣があります。「動かない」、「たくさん食べる」。糖尿病治療によって糖尿病患者さんが腎不全になるまで長生きできるようになった。もう1つの課題としては、高齢人口の増加によって腎硬化症がふえてきて、原疾患はどんどん変わってきています。

 昨年、糖尿病をしっかり治療すれば糖尿病腎症にならないという証拠が出てきました。一般的に糖尿病性腎症というのは、糖尿病の病歴が大体10〜15年と長くなったときに、起きると言われてます。糸球体濾過量がはじめは増加して、一見腎機能は悪くないように見えて、そのあとゆっくりと減少してきて、はじめのころは蛋白尿は出てなくても腎臓は侵されているのです。しかしながら、もう蛋白が出始めるころ急速に進行して、むくみ、溢水、心不全で透析導入になってしまう。そして、導入前から血管合併症がたくさんあります。狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、間歇性跛行、網膜症も起こしてくる。このようなものが糖尿病性腎症の臨床像です。

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 昨年国際腎臓学会雑誌に、膵臓移植の前後で腎生検をしたら、糖尿病性腎症の病理所見が治っていたと報告されました。これまで糖尿病性腎症の病理所見は腎硬化所見で治らないと言われていたのです。一生懸命インスリンを朝夕打っても腎硬化症は進行してしまい、糖尿性腎症が進行して透析に入った方もたくさんいらっしゃると思います。そういう方の経験からいうと、膵腎移植しても、糖尿病性腎症は治らないだろうと思っていたのです。しかしながら治った。これはすごい。この結果、二つの流れがおきました。

 1つは、人工膵臓を埋めてしっかりとコントロールするために人工膵臓の開発研究をしようというグループ。もう1つはもっと気が短く、今までインスリン3回打ちで治療していた患者さんを注射回数をふやして、厳密に血糖をコントロールする研究を始めたグループです。さらに、降圧剤や抗凝固薬等使って指示する療法をやっていくことで糖尿病はしっかり治療できる、その結果糖尿病性腎症は予防できるのだ、というようにに大きく変わったのです。

 ただ、非常に厳密なコントロールというのは大変な治療でほとんどの患者さんが継続できません。インスリン分泌細胞をどうにかして体に埋める、という方向の技術開発が、どんどん進んでいく事でしょう。

 例えば、インスリン細胞を、亡くなった方のインスリン、ランゲルハンス島細胞や動物、人以外の動物の細胞のこともあります。それをカプセルに埋め込んで体に植えてやる。脾臓に植えてやることによって膵臓の役割をさせていこうと。もう一つは完全に機械に、血糖センサーとインスリン注射器を組み込んだものを埋め込む、というものの開発も進んでいます。もしこれがうまくいけば、糖尿性腎症という、先ほどお話しした腎不全の原因の約3分の1を占める糖尿病性腎症がなくなってしまうことが期待できます。

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血液療法にも問題点が

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 今の、透析療法の大きな問題点としましては、慢性血液透析療法をうける糖尿病性腎症、腎硬化症患者の数がどんどんふえているということです。数がふえるのは、個々の患者さんにとっては透析に入る可能性がふえることですから困ったことだし、社会にとってもそれだけの医療費を使うので、やっかいなことです。だから、できれば数を減らしたい。そしていまの社会にとって大きな問題点は、この透析医療費が膨張になり、日本が豊かだった時代には耐えられても、不況でこれだけの医療費を国民全員で負担していくのは難しくなってきている。これが社会の豊かさが医療費増加の上限になるわけです。

 さらに大きな問題としては、外来に週3回通うという診療の体系です。「足腰も弱ってもう通院できませんよ」という方も多い。先ほど5%いると言った腹膜透析、これは在宅で自己治療ですから、ある意味では通院の問題にも、それから医療費の問題についても一つの解決策であったわけですけれども、腹膜硬化症/硬化性腹膜炎が見いだされました。腹膜透析を長期間やっているうちに腸閉塞をおこし生命に危険が及ぶ合併症です。これを恐れて腹膜透析を勧めない医師、選ばない患者さんもいらっしゃる。


(スライド7)
秋葉隆教授の写真


 この治療体系を変えるためいろいろ試みられています。

 最初に、透析療法の進歩についてです。体外循環による血液浄化には、血液透析法(HD)、血液濾過法(HF)、血液透析濾過法(HDF)、水道水から直接透析液をつくって透析濾過をやるインラインHDF、それから吸着法が挙げられます。このような膜を介して拡散で老廃物を抜くという透析にそれ以外の技術を入れて透析の成績をよくしよう、という努力がされました。これは1970年後半あたりから始まり、現在も進んでいます。

 透析膜については、最近では東京医科歯科大学の医療材料研究所にいらっしゃった中林先生、ご門下生で東大に移られた石原先生が、「ヘパリンを使わなくてもいい透析膜」を開発されました。理想的な材料が実現できたのですが、残念ながら非常に生産コストが高い。ヘパリンを使わないというメリットと、透析膜が高いというデメリットの結果、現在医療用具として生産されていません。

 透析液では、エンドトキシンを含まない液で透析をしたら、体にいいのではないか。

 β2ミクログロブリン産生を刺激しない、きれいな透析液で透析したら、体にいいだろう。透析スケジュールを、今の固定的な週3回、1回4時間ではなくて、もっとフレキシブルに考えたらもっと体にいいんではないかと考えられ、本当にそうなるか経過を見ているところです。

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 アミロイド関節症に対する治療ではアドソープション、すなわち吸着治療についてご紹介します。

 アミロイド症の、代表的な症状は手根管症候群です。手が痛くしびれ、手のひらの筋肉が落ちてくる。冬になるともう指先が冷たくて、手袋しても辛い。どうしようもないので主治医に言うと、手術しましょうかということになります。手術法は内視鏡手術を勧められることもあります。狭い手根管にたまったアミロイドを機械的に排除してあげる。

 次に、ステロイド投与が選ばれます。これは、新潟大の教授になられた下条先生が1997年に厚生省研究班で検討されました。アミロイドは炎症反応の結果としてたまってくると推測されるので、ステロイドで炎症反応をおさめるのがその考え方です。投与目的を短期間の疼痛改善と拘縮阻止に限って、副作用モニターを十分に行えば、プレドニン5ミリグラム隔日、ないしは連日で1カ月の投与が有効である。ただし、一カ月でもすぐ減量しなくてはいけない、というのが結論です。ステロイドは確かに痛みを取ってくれます。ただ合併症、最たるものは感染症、消化管出血、こういうものを起こしてきて、命にかかわることがあります。痛み止めで命を失っては困りますから、限られた場合にしか使えません、というのが、最終結論でございました。

 もっといい方法はないかということで、リクセルがつくられました。これは、血中β2ミクログロブリンを、透析の時に吸着で抜く装置です。血液を吸着体の中を通していきますと、血中にあるβ2ミクログロブリンが表面にある受容体に付着して、きれいになって血液が戻っていく。その吸着体を通した後、今度は普通のダイアライザーを通して患者さんに戻すわけです。リクセルを通って、透析器を通って患者さんにもどっていく。これを使うと、アミロイドーシスのもとになる蛋白質β2ミクログロブリン血中濃度が減ることがわかります。抜いただけで症状もよくなるのかということが疑問でしたが、治療効果を24ヵ月痛みのスコアを問診しますと、やってない患者さんは、ほとんどよくならない。ところがやった患者さんは、例外なく痛みが軽くなっているわけです。非常に高価なものですから、保険適用は限られた患者さんです。本来、こういう本当にいいものを治療に使えば、予防にもなるというのが当然の考えですね。私たちも予防に使いたいのですが、医療経済の面から保険が許してくれない状況です。

 究極的には、腎移植をすればアミロイドの症状の改善になります。ただ、血管のそとにたまってしまったアミロイドが腎移植で抜けるかどうか、今のところ証明がございません。

 そこで、信楽園にいらした甲田先生が、しっかりした透析でアミロイドを抜けるかどうかという試験をされた。

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膜や透析液によってアミロイドーシスの予防

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 甲田先生は東レのB2膜を使われました。PMMAという物質でつくった膜で、非常に、β2ミクログロブリンの抜けがいい。従来β2ミクログロブリンの血中濃度が30から40、非常に高かった患者さんを、B2膜にかえて透析した。1回の治療で、血中濃度で40%ぐらい下がるほどよく抜ける透析膜を使うと透析前の血中濃度が下がった。これを9年間続けました。その結果、透析患者さんの疼痛が減った。アミロイド症の発症が減った。ですから、B2膜で透析してβ2を除去し続けていれば、(リクセルみたいな高いものを使わなくても、)β2ミクログロブリンによるアミロイド症が予防できた、ということを証明されたわけです。


 彼は、アミロイド発症を低下させる透析膜としては、PAN膜、PS膜、PMMA膜など、ハイフラックスメンブランと呼ばれる膜だと結論されました。昔のクプロファン膜ではアミロイドーシスは防げない。さらにそれだけではなくて、もう一つ重要な点として強調されたのが、ウルトラピュアダイアリシスとよばれる、きれいな透析液を使うとβ2ミクログロブリンによるアミロイドーシスの発症が抑えられるということです。



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 透析液は水道水を活性炭、そしてある装置を通って透析器に流れます。この装置はほとんど何もない施設から、逆浸透圧装置などを使ってきれいにしているところもあります。現在透析室の9割ぐらいがこの逆浸透圧装置を装備するようになりました。ただ逆浸透圧装置を使えば本当にきれいになるかというと、なかなかそうはいかないのです。逆浸透圧装置とは、非常に網目の細かい膜フィルターに高圧ポンプで水を濾過するのです。フィルターを時々洗って、また悪くなったら取りかえなければなりません。大切なことは、100%濾過すると、汚い物が膜に詰まって悪くなりますから、ある程度汚い水を捨てます。最低でも2〜3割、場合によっては半分の水が捨てられます。水道代がよけいかかるなどコストがかかる装置である。透析液の成分は体の成分と共通します。菌が入れば繁殖します。そうなれば菌の培養液で透析することになります。これにはエンドトキシンという細胞毒を含んでいます。皆さん、雪印の事件を思い出しますね。エンドトキシンは血中に入っていくとサイトカインIL―6という炎症細胞を活性化し炎症反応を起こす。これがβ2ミクログロブリンの産生につながるわけですから、エンドトキシンをしっかり除いてやればβ2ミクログロブリンによるアミロイドーシスが減る、というのがこの仮説です。


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 現在、水のシステムはプレフィルター、イオン交換樹脂、活性炭吸着装置、プレフィルター、逆浸透圧。そして紫外線滅菌をしてまっすぐ透析液作成装置に流します。回路によどみがないように設計し、定期的に高温の温水で洗って殺菌剤を通す自動装置をつかって、しっかり管理すれば、きれいな水で透析が受けられるということになります。
 AMMI基準というアメリカのNIHが指導し、業界団体が定めた透析液の水質基準があります。たくさんの項目を測定して全部が基準以下、これには入っていませんがエンドトキシンも調べて、きれいな水をつくりながら透析を受けたいものです。日本の透析施設の主だったところはこの水の基準をしっかりと守っていらっしゃいます。学会に協力した施設で調べると非常にいい結果が出てきますけれども、それが日本全体をほんとに代表しているかという確認はありません。自主的な規制というのはなかなか難しいものです。

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変更可能項目で生命予後を改善

 長期予後を改善する血液透析として、私ども透析を担当する医者が、処方できる部分と処方できない部分がある。年齢というのは変えることはできません。変更不可能なファクターと、透析の時間を延ばしたり、透析膜をよくしたり、たくさん食べていただいたりという、変更可能なファクター、この二つのファクターがあって、患者さんの生存死亡、合併症、生活の質を決めていきます。前者については今の状態を私たちは受け入れるしかない。無論、疫学を考える人はここを非常に重視しますけれども、私たち医者としては、これはあるがままに受け入れて、そして後者の変更可能な部分をよくしたいと思っている。それで、よくすることによって死亡率、合併症、QOLを改善したいと思っています。例えば先ほど透析液の純度を改善することや、PMMAのようないい膜を選択するという話をしました。
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 次は、尿毒症毒素の除去についてお話しします。Kt/V。お聞きになったことありますでしょうか、医師やスタッフが話しているのを聞かれたことがあるかもしれません。Kt/VのKとは透析の効率、tは透析時間、Vは尿素の分布容量でございます。一言で言えば、時間と透析膜、QB(血液流量)、それから体格ですね、この三つを総合して一つの数字であらわす透析指標でございます。透析が十分やられているKt/Vが大きい人と、不十分なKt/Vが小さい人を比較しました。横軸は170カ月でございます。15年間の生存率を見ますと、早く落ちているのがKt/Vが1以下の患者さん、ずーっと長生きをできるのはKt/Vが1.4以上の方、というふうに分かれました。

 私ども日本透析学会のデータを使って、1年生存に与えるリスクを調べてみました。例えば、心胸郭比が60%を越えるところから、死亡のリスクが非常に高くなる。

 これは当然ですね。それから体重減少率、すなわち1回の透析で体重をどのくらい引くかというのを調べますと、たくさん引かなくてはいけない人はリスクも高い。でも、ほとんど引かなくていい人もリスクが高い。この解釈ですが、この患者さんたち食事がとれなかった人たちですから、当然リスクが高いですね。

 それから、透析膜面積が大きくなっていけばいくほど、1.6*$8429を越えるあたりまで、大きければいい。小さいとやはりまずい。それから、平均血圧が低すぎる人も高すぎる人もよくない。高血圧がよくないとよく言われていますね。ところが、平均血圧が60以下というのは、血圧で言えば例えば80/40mmHg、透析低血圧の人もよろしくないということです。

 同じようにKt/Vは1.4を越えてもリスクが下がっていく。透析時間もある程度長い方がいいですよ。5時間を越えるところでは有意に減る。今は4時間がスタンダードになっていますが、できれば長い方がいいというのは統計の結果でも言えることです。

 この結果から、皆さんの透析を、どうしたら一番生命予後がよくなるか推測できる。みなさんの人生の目的が一体どこにあるかは医者にはわからない。長生きし、合併症なく、社会復帰することが人生の目標と仮に、考えて治療法を選んでお勧めしてます。けれども、皆さんの人生の目的にかなっているかはわかりません。

 透析は毎日、24時間やった方がいいです。それをお勧めしたら皆さん納得していただけますか。そうはいかないですね。結局ある妥協点をみんなで見つけ合いながら治療していきます。また国が許してくれない面もあります。一つの視点から見てこうだという結論は出せるかもしれませんけれども、実際の診療をどうするかというのは、皆さんと相談しなければ決まらないです。

 次に透析低血圧の予防です。もう皆さんの施設にあるかもしれませんが、ヘモグロビン濃度を測定しながら透析をする装置があります。プラズマリフィリングといいまして、除水をすると血液量が減ってくる。それを補うように細胞内から水がしみ出てくるわけですけれども、そのしみ出てくる割合、すなわちプラズマリフィリングを測定することによって、血圧を心拍質量を維持しながら透析をするという方法ができています。今は、プラズマリフィリングの数値は数字で出てくるわけです。それをスタッフが読んで、除水などを調節しているわけですけれども、この間の在宅治療学会ではそれをもう機械に判断させて除水のスイッチを機械が自動的に行うことができるようになりました。

 在宅治療の問題がございます。「透析時間は長いほどがいいんだよ」と言いましたけれども、長くなれば病院に拘束される時間がふえます。そうすると、日常生活を楽しむ時間が減ってしまいます。そこで在宅血液透析がよいかとなります。3年前保険が通りまして、在宅透析ができるようになりました。ただ、なかなか皆さん踏み切れない。時間と回数を、しっかり確保し、かつ限られた医療資源を人件費に使うか、病院をつくる建設費に使うか、材料費に使うかという判断です。やはり質を一番左右するのは材料です。よりよい材料を使って、しっかりした長い時間の治療ができる点が在宅をお勧めする大きな理由です。医療の質を維持する方法として、経済的な限界からくる流れというのがあるということはご理解いただかなければいけないと思います。

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 在宅のためにより安全な機械装置をつくらなくてはいけない。60リッターのタンクで透析をすると非常に安全に透析ができる。インターミデュエイトケイ(中間施設)といいまして、病院でも診療所でもないふつうの事務所で、10台ぐらいのベッドと看護婦さんが1人いて、監視はしてくれますが、行程はすべて自分でやるという施設です。フランスでは非常に安全な機械を配置しまして、患者さん自身が集まって治療を受ける方法も提案されています。実際「ホームヘモダイレスト・インターナショナル・国際家庭血液透析学会」というのができて、学会誌も出てます。

 CAPDですが、きょうはゆっくりお話しできませんが、中性透析液が市販されるようになりました。グルコース以外の砂糖類にかえたアイコデキセリンという腹膜透析液の試験が終了しまして、もうすぐ使えるようになります。そうすると、腹膜硬化症も将来減るんではないかという期待が持たれます。



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カルシウムを上げないリン吸着薬も出現

 エリスロポエチンに取ってかわるものとして、次世代のエリスロポエチンとして、糖鎖を長くしたエリスロポエチンが、長い時間効くということがわかってきました。ペグエポ(pegEPO),ネプス(NEPS)と呼ばれる新しいEPOが学会レベルでは使われるようになっています。それから活性型ビタミンD、125D3の注射薬が製造承認になりました。それからオキサロールというビタミンDの注射液が半年前に出ました。それから欧米ではちょっと構造が違うビタミン製剤が使えるようになっています。

 リンをコントロールするためレナゲル(RenaGel)という、カルシウムを含まないイオン交換樹脂によるリン吸着薬がアメリカで市販になってます。今、日本では第三相試験が行われてまして、2〜3年のうちにカルシウムが高くならずリンを下げられる薬が使えるようになる状況です。

(スライド14)
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 それから、まだ全然薬としての見通しはありませんけども、カルシメトニックドラッグというPTHを直接副甲状腺細胞に働きかけて分泌を抑える薬が開発中です。ですから、ビタミンDみたいにカルシウムを上げてしまうようなリスクもなくて、ダイレクトに副甲状腺細胞に働いて、副甲状腺ホルモンの分泌を抑える。

 酸化ストレス、アミロイドーシスを防ぐ薬としてビタミンE、それから、これは東海大宮田先生により開発されたOPEというお薬が実験、試験管レベルでは有効であることがはっきりしてます。ですから、これからヒトに投与される時代も、将来考えられる。この21世紀には必ずあるだろう、と期待されます。


 このスライドは透析患者さんの心合併症の剖検所見です。もっとも多い心臓死を減らすにはどうしたらいいか。我々、貧血が心臓死を増やすと考えて、保存期の患者さんにエリスロポエチンを投与してヘマトクリットを上げてみました。同時に心臓の大きさを超音波ではかりました。エリスロポエチンで貧血をよくしてやったらLVMASS、すなわち左室心筋の容積が確実に減る。すなわち、エリスロポエチンで貧血を治すと心肥大がよくなった、と言えるわけです。貧血を治して心臓の負荷を減らしてあげると、心肥大を予防できる。

 次がビタミンDです。二次性副甲状腺機能亢進症で、骨が虫食い状になって、微小骨折すると、ミリ単位のところですから痛みもないでしょうけれども、これがたくさん重なってくると、ぐしゃっと骨が折れる。こういう状態をどうにか防ぎたい。破骨細胞を刺激しているのは副甲状腺ホルモンですから、副甲状腺ホルモンを抑えてあげたい。それでオキサロールを投与しますと、この800pg/mlあったものが、400〜500pg/mlまでぐっと下がってくれる。二次性副甲状腺機能亢進症をしっかりと押さえる静注薬ができた。

 このとき、心臓の超高速CTをとると冠動脈の石灰化の有無がわかります。これは心筋梗塞、狭心症のもとです。検査法としては非侵襲で痛くない検査です。シネアンギオ(血管造影)を追加する。この石灰化を目安にし、レナゲル、新しいビタミンD3が投与されるようになるでしょう。

 近未来には、腎移植が比較的容易に行われるようになるでしょう。「容易に」という意味は、むろん国民の協力が得られ、死体腎が今以上に得られることになるでしょう。脳死もしっかり診断ができて、増えるでしょう。しかしながら、アメリカ、ヨーロッパ、中国を見てみると、じゃあ皆さん移植されて透析がいらなくなるかというと、そうではないんです。あれほど移植の盛んなアメリカには、日本の倍の透析患者さんがいらっしゃいます。あれだけ移植をしてもまだまだいらっしゃる。それは、ですから決定的に移植臓器が足らないのです。

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移植腎臓供給源もいろいろ

 そこで、腎臓の供給源として、豚ないしは他の動物のをもらえるようにするか検討されました。ほかの動物からきますから「ゼノトランスプラント」と言います。一方、ES細胞と言いまして、自分の細胞をいろんなホルモン刺激をすると器官をつくるようになる。細胞増殖から腎臓をつくって自分に戻す。これは自分自身からきますから「オートトランスプラント」と言います。それから機械的につくった植え込み型人工腎臓です。もっと現実的には、シャントを改良して簡単に穿刺できるようにした在宅透析が候補に挙がります。
 ES細胞から骨をつくるのは成功しました。ES細胞から耳の形をした皮膚をつくるのも成功しています。それから肝臓も成功しています。それから心臓で、拍動する心筋も成功しています。しかしながら、腎臓のような複雑な臓器ができるまでは、当分かかると思います。
 臓器供給源を、ドーリーという名前の羊の写真を見たことがありますね。要するに、体細胞からDNAを取り出して、それを核を抜いた卵細胞に入れて、動物に育てさせて自分と全く同じ形質を持った個体をつくって、腎臓をもらおう、という発想があったんです。しかしながら、これはやはり倫理的に難しいということから、ES細胞から腎臓だけつくって自分に植える分には構わないだろうということで、方向転換しているわけでございますけども、人の形質を持つミニ豚、ですから人間の形質を持つ豚の臓器ですから、比較的簡単につくれると見通しは立ったんですけども、まだまだ乗り越えなくてはいけない壁は大きい状態です。
 30年後、50年後にES細胞による腎臓が個体に植えられる、ということが期待できても、それだから毎日の診療がしっかりしなくてもいいということにはならない。私たち現役の医者にとっての仕事は、ES細胞の腎臓を植えることではなくて、本日お話ししたような地道な腎不全の診療をしっかりやり、また、新しいものをできるだけ取り入れていくということが、腎不全の診療をよくすることだと思っております。皆さんとともにこの道を歩めればいいと思ってます。今後ともよろしくお願いいたします。(拍手)

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東腎協  2001年7月25日 No.139
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最終更新日:平成13年7月29日
作成:Tokura