透析患者のための医学入門講座 2
血液透析の主な合併症その予防と治療について
東京医科歯科大学教授 丸茂 文昭
近年、長期透析者の増加と共に長期間の透析による合併症が増えている。とくに心臓を中心とする循環器合併症は、透析者の日常の心がけでかなり予防できるので、最もとりあげるべき合併症といえよう。その他、長期透析に伴う合併症について述べる。
1.心・循環系合併症
最初から死亡率という言葉を出すのは縁起が悪いが、分りやすくするため御勘弁いただきたい。図は1996年の透析者と1997年の厚生省による全国調査との死亡原因との比較である。一目みて驚くことは、透析者の心疾患での死亡率の多さであろう。日本人の3大死亡原因は、悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患(脳血栓・脳出血)で心疾患はがんの半分位である。ところが、透析者では心疾患がダントツで断然1位である。ではなぜ透析者で心疾患が多いのだろうか。それにはその理由を知らなければいけない。
透析者の心疾患の内訳は、圧倒的にうっ血性心疾患が多い。(心筋こうそくはずっと少ない)では、うっ血性心不全とは何か。
うっ血性心不全とは種々の原因で心臓の筋肉が疲労して死滅していき、心臓の働きが弱って、血液が十分体中に送れなくなってしまう状態をいう。ではその原因は、
- 強い貧血
- 長い間の高血圧
- 心筋炎など心臓の筋肉の炎症
- 沢山の血液を送り出すために心臓の筋肉の過度の疲労
- 尿毒症性物質などの毒素による心臓の筋肉の傷み
などがある。このうち(1)はエリスロポエチンでほぼ大丈夫。(3)はウイルスなどで起こるが一般的ではない。(2)は重要だが降圧剤をちゃんと服用していれば防げる。従って、(4)と(5)が重要となる。透析と透析との間の体重増加は避けられない。しかし、増加した体重の半分以上は血管の内に溜る。従って、心臓はその血液を送り出すため大きな負担をうける。もし、血液量が5リットルの人に2 (2リットル)の水分が血管内に入ったら、血液は40%の増加になる。こういった心臓への負担が永年続くことがうっ血性心疾患の〈もと〉になる。体重増加は1.5 以下が望ましいという理由はここにある。 また、(5)の尿毒症性物質などの毒素は、たん白質からできる。たん白質から毒素の他、リンや酸もできるので、たん白質は無制限でなく、1.2/s体重、以上にならないことが望ましい。適度なたん白質、塩分と水分制限をすることによって、1日に10万回も働いている心臓に負担をかけないようにすることが心疾患を防ぐ最大の予防策といえる。
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2.腎性骨異栄養症
透析に入る前からこの合併症に少しづつなっているのが現状で、一生つきあっていく合併症といえよう。それだけにつきあい方が大切となる。腎臓の機能が低下すると活性型ビタミンDの生産が悪くなり、腸管からのカルシウムの吸収が低下する。そうすると副甲状腺ホルモン(PTH)が沢山分泌されてきて骨のカルシウムを減らすように働いてしまう。その結果、骨はもろくなり骨折しやすくなる。透析者でもこの状態が続く。活性型ビタミン製剤を服用して足りない分を補うようにしているが、また別の問題がある。それは、食物からのリンの吸収を押えるため炭酸カルシウムを服用していることである。活性型ビタミンD製剤はカルシウムの吸収を促進するため血清カルシウム値が正常より高くなってしまう恐れがある。カルシウムの値が高いうえにリンの値も高いと不都合なことが沢山起こってくる。このゴチャゴチャした関係の解決はどうしたらよいか。それは、リンを少なく含むたん白質を選ぶことと、たん白質を1.2 /s体重までとしてリンをできるだけ摂らないようにすることである。そうすると炭酸カルシウムの服用量は減り、活性型ビタミンDも服用できるようになる。従って、腎性骨異栄養症の悪化が防げるというわけだ。
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3.アミロイドーシス
長期血液透析を行っていると、アミロイドという物質が体内に溜ってきて、手根管症候群をまず起こす。これは手術でよくなることは知られており、あまり医学的には大きい問題ではない。破壊性脊椎炎などアミロイドに関係する障害が長期透析者にみられることが、現在透専門医の間で問題になっている。対症療法はできるが、根治療法、確実な予防法がまだ確立していないことが残念である。ただ、長期透析者全員に必ず起こるものではないので、何故起こる人が出るのかを研究することで発症が避けられるのではないかと考えられている。全面解決にはもう1寸時間がかかりそうだ。
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4.シャントトラブル
米国などではシャントトラブルで透析の効率が落ち、体調が悪くなり不幸な転帰をとることがあると報告されている。幸い本邦でのシャント作製技術は国際的に一流で、極めて困難な例は少ない。逆に気にして欲しいことは、長年同一シャントを使っているうちに血流が多くなりすぎて、心臓の負担になることである。片1方の手が著しく太くなってきたり、肩の付根がだるく、あるいは痛くなってきたりといった症状が強ければ、シャント血流量が多すぎないかということも考えてみる必要がある。 これも最初に述べたうっ血性心疾患に関係する場合があるからである。
以上、かけ足で血液透析の合併症とその予防について述べてきた。透析者の皆さんが1日1日を大切に合併症を起こさないよう気をつけて下さることを願っています。
図1 死亡原因の比較
1997年度全国統計では、 1位 悪性新生物(がん)、2位心疾患、3位脳血管障害である。
透析者の死因は日本透析医学会の1996年度統計では心疾患が圧倒的に多く、がんが少ない。尚、透析者の平均年令60才内外の厚生省全国統計でも総合統計と同じ傾向を示し、透析者の死因傾向と著しく異なる。
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