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透析患者のための医学入門講座 3

「透析医療のこれから」

東京医科歯科大学 教授 丸茂 文昭

 透析医療とは体内に溜る老廃物をいかに効率よく体に負担をかけずにとり除くかという医療ということになるでしょうか。透析医療のこれからを考えるのに、まず4つの部分に別けて述べます。

1.透析医療は高額医療である。

 合併症がなくても1人の透析患者に年間600万円内外の医療費がかかり、医療費を圧迫しているのは事実です。これに対し日本では、既に「まるめ」という形で医療費を圧縮していますし、更に心疾患や腎性骨症、エリスロポエチンも「まるめ」られないかと考えています。
 もしそうなると、医療機関の人件費の節減、検査や治療内容の簡素化といった動きの出る恐れがあります。即ち、透析医療の質の低下に直結します。世界で最も低い年間死亡率は、世界で最も質の高い透析医療レベルによって保たれていることを忘れてはいけません。 米国のように20%をこす年間死亡率は、短時間透析など医療コストの削減の過剰追及による患者不在の営利医療制度の結果です。患者さん自身が医療の質を守るにはどうしたらよいか考えなければならない時代になってきました。

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2.腎臓移植をどう推進していくか

 臓器移植法が施行されてから実は1人の脳死移植も行われていません。小児の脳死移植自体を法が認めていないので、幼い小児への移植のやりようがありません。私達は、あれは臓器移植阻止法だといって怒っているのですが、患者の皆さんからもう少し強い運動が頂けたらとも思います。
 法施行以来、心臓死で十分できる腎移植も提供者が減って移植回数が少なくなっています。国際的には屍体腎移植は盲腸の手術のような一般医療のひとつと考えられています。日本でも早くそうなるよう運動していかねばならないと思います。

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3.透析医療はどこまで効率化され得るのか

 30年以上透析に関与していると、何と透析効率は向上したものかと、隔世の感がありますが、最近の5―10年では革命的と言えるほどの変化はない。透析膜を介しての透析という基本的なメカニズムに変更がないため、いかに膜の効率をあげるかという改良しかなし得ないためです。
 ハイパフォーマンスメンブレンの特集(次世代人工腎臓研究会)を95〜97年まで見ても、残念ながら変わりばえがしません。勿論少しづつは進歩しているのですが、これといって決定的な変化がないのです。
   膜の穴(ポア)を大きくし、膜を薄くすると効率は上がりますが、逆に透析液の方からパイロジェンといった毒性のあるものが逆流したり、ビタミン、ホルモンといった大切なものの1部が流れていってしまったりと難しいものです。
 突破口として、ひとつビタミンEを膜に組み込むという報告がありましたが、膜に尿毒症性物質をとりこんでしまう物質を組み込むとか、リンを吸着してしまう物質を組み込むといった方法が近いうちに出てくるでしょう。その辺が新しい方向かと思います。
 透析時間の短縮は、尿毒症性物質などの有害なものが細胞内から血液に出て透析されるのに1定の時間がかかるので、あまり急ぐと米国の愚かしい過ちを繰り返しかねませんので注意が必要です。
 新しいニュースとして穿刺の問題があります。誰だってあんな太い針を刺されて痛くないはずはありません。穿刺から開放する方法として、前胸部に埋め込んだ器具に透析ラインを丁度腹膜透析のコネクターのように接続して透析ができるという方法が「ASAIOジャーナル」の最近号に報告されました。
生体適合性のよい材質が近来急速に進歩していますから、そう夢物語りではありません。実用化はすぐにとは云えませんが、期待していてもよいと思います。

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4.体内に老廃物を溜めないことも忘れないで……

  透析方法や効率の改善、進歩は少しづつではありますが着実に進んでいます。しかし、あっと驚くような改革は、今期待しても無理でしょう。決して悲観的ではありませんが夢を追っていてもはじまりません。老廃物を体内に無意味に溜めないことも、透析効率をよくするひとつの方法です。保存期腎不全の時期に比べて食事療法は緩るくなりました。しかし、老廃物、リン、酸が出てくる元は蛋白質です。蛋白質を1.0g/kg、即ち、体重60キログラムの人で60グラム位にガマンすることは出来ない相談ではないと思います。リンの上昇を予防するためにも食事に気を使って頂きたいと思います。
特にCAPDでは、腹膜の透過性が低下して透析効率が落ちる傾向がある1方、アルブミンが腹膜からぬけ過ぎ、低アルブミン血症 (低栄養)状態になることがあるので、医療スタッフとの連絡を密にしている必要があると思います。
 透析医療は、医療関係企業を含む医療関係者の不断の努力で、ハイテンポではありませんが日々進歩をしています。透析を受けている皆さんも、自分自身で体を守ることを心がけてください。

東腎協  1999年1月25日 No.126

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最終更新日時:2001年5月3日
M.KOSEKI