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透析患者のための医学入門講座 5

水分、ナトリウム、カリウムの摂取について

医療法人社団望星会望星病院理事・院長 北岡 建樹

北岡 建樹院長の写真

自分に適した体重増加を

 透析患者さんの自己管理として一番問題になるのが水分・塩分の管理といえます。このコントロールが不十分になると体重の増加、むくみ(浮腫)、血圧の上昇(高血圧)、さらにもっとひどくなると胸水・肺浮腫や心不全という生命の維持が危ぶまれるような状態に陥ることになってしまいます。このような厳しい状態である心不全ではベッドの上に横になっていることはできず、座位の状態にしておかないと呼吸困難がひどくなるわけです。これを起座呼吸といい、心不全に特徴的な症状といえます。これはちょうど水におぼれたようなもので、呼吸をする肺の中に水がたまり、体の中で水におぼれてしまっていることになるのです。
 このような最悪の状態にならないように日頃から水分・塩分の摂取に気を付けておくことが何よりも大切といえます。ここで問題となるのがいわゆるドライウエイトという概念です。透析終了時にこの体重を確保できるように除水することが目標になるのですが、この場合に体重増加が著しく大きいと、透析により増加量を十分除水できず、血圧低下発作を招いたり、終了時に体のだるさ、筋肉のつれ、嘔吐などの不均衡症候群を出現させることになります。予定の除水量が達成されずに、次の透析まで残してしまいますと、これが雪だるま式に積み重なってドライウエイトからますます遠ざかってしまうことになります。
 しかも一回の透析による除水量が多いと、生理的な現象としてのどの渇きを伴うことになるのです。この結果、せっかく除水を試みたにもかかわらず水分を摂取をしてしまい、次の透析までに体重増加が著しくなるという悪循環を招くことになってしまいます。このようなことから一日に摂取する水分量を決めて、体重の増加の程度を決められた範囲内に留めることが必要になります。多くの施設では中二日では、ドライウエイトの5%以内、中一日では3%以内というような基準があります。
 もちろん患者さんによっては、この範囲内に留めても透析中に血圧低下発作を生じたりして十分な透析治療を継続することが難しい人もいます。このような人は、一回の透析による自分自身の除水量の許容範囲を知り、自分に適した体重増加とすることが必要です。血圧が下がったということで、生理食塩水を透析中に投与されてしまうと、せっかくの除水の達成がますます困難になることになってしまいかねません。

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ドライウエイトは体の状況により変化

 ドライウエイトというのは終生変わらない体重ではありません。この体重設定は心胸比、透析中の血圧の状態、むくみのないこと、心臓のエコー検査や心房性ナトリウム利尿ホルモン(hANP)の値などから経験的に決められるものです。身体に過剰な液体が存在しないように、除水する基準となる体重のことです。これは身体の状況により変化させていくことが必要です。例えば、食欲が強くて水分による体重増加ではなく肥満した場合には、ドライウエイトを上げる必要があります。逆に、食欲不振で痩せてきた場合には、ドライウエイトを下げる必要があるのです。患者さんの中には、しばしば食欲がないのに、これ以上体重を下げられたら、ますます食欲がなくなるといって、体重を下げることに抵抗を示すことがあります。この考え方は誤りで、痩せてきた場合には余分な体内の水分を除去するために、ドライウエイトの設定を下げなければなりません。
 ドライウエイトは安定した透析患者さんではほとんど設定を変えることがないものです。この設定値を頻繁に変化させなければならないのは透析導入時の場合とか、食欲不振があるような場合です。特に糖尿病を原因とする腎不全では食欲があるからといって、摂取量を増加させるとドライウエイトを上げざるを得ない場合があります。しかしこの状態は肥ったことを意味し、血糖のコントロ−ルの上でも好ましいことではありません。適切な標準体重であるなら、肥ることは糖尿病の人にはよくありません。

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高カリウムは生命取り

 検査成績などから食事療法の不備を指摘される項目は力リウムやリンがあります。カリウムの過剰摂取は神経筋肉への悪影響があり、特に無尿の透析患者さんでは注意が必要です。血清力リウム濃度5・5mEq/L以下とする基準があります。この値以上になると筋力低下、シビレ感、不整脈の出現を招きやすいといわれ、8mEq/L以上になると高度の不整脈を招き、生命の危険が危ぶまれることになります。
 力リウムは細胞の中に含まれる電解質であるため、多くの食事の中に存在します。特になまものや果実・野菜などに多いものです。高力リウム血症を避けるために必要なことは、大食しないこと、力リウムを茄でこぼすことがあります。煮汁を捨てることは当然です。食事摂取の場合にはカリウムの含有量が特に多いものを知っておくことも大切なことです。
 旅行や結婚式などでふだんとは違った食事をとることになる場合には、摂取量を控えるとか、力リウム吸着剤を処方してもらうことが必要になります。通常の場合にはこの力リウム吸着剤を使用しないでも、うまく血清カリウム濃度のコントロ一ルできていることが自己管理能力の優れた人といえます。
食欲が不十分でカロリー不足になった場合にも高カリウム血症が出現することがあります。この理由は自分の細胞が壊れ、そこからカリウムが血液中に出現するために高カリウム血症となるわけです。このほか著しい感染症や高度のアシドーシスなどの異化亢進状態においても、食事からのカリウム摂取量が多くなくても高カリウム血症が出現する場合があります。

東腎協  2000年1月25日 No.131

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最終更新日時:2001年5月3日
M.KOSEKI