最近、長期透析患者が透析アミロイドーシスや骨の変形による痛みを訴え、日常活動にも支障をきたすという話を耳にします。現に、東腎協の古い役員達が次々と動けなくなって、会活動から引かざるを得なくなっています。会員の方の中にも、同様の悩みを抱えている方も多いと思います。そこで今回は「透析に伴う脊椎疾患」と題して手術をした体験談と共に特集しました。
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わが国では透析導入から30年以上が経過し、透析人口は20万人をこえようとしています。透析の長期化に伴い、整形外科の疾患にかかり治療を必要とする患者さんが増加してきています。特に脊椎疾患では神経の障害が進行すると歩行障害を生じます。透析のために通院することが困難となり、手術を必要とする患者さんもみられるようになりました。透析に伴う脊椎疾患にはどのようなものがあり、どのような症状に注意を必要とし、どのような治療を必要とするかについて話します。
〜透析に伴う脊椎疾患とはなにか〜 良く耳にされる透析に伴う脊椎疾患はDSA(破壊性脊椎関節症)ではないでしょうか。これは1984年にKuntz医師がはじめて透析に伴う脊椎疾患として報告しました。Kuntz医師が記述したDSAの定義は脊椎X線像において椎体終板の侵食を伴う著明な椎間腔の狭小化を認め、骨棘形成を認めないという所見よりなります。諸家の報告よりその発生は透析導入10年後より増加し、頻度は全透析患者さんの20%前後と推定されます。原因としては当初はハイドロキシアパタイトやピロリン酸カルシウム結晶に起因すると考えられていましたが今日では透析アミロイドーシスに起因することがわかってきました。現在も透析に伴う脊椎疾患をすべてDSAと考えている方もいらっしゃるかと考えます。
しかし、その後の研究で、ほかにも様々な透析に伴う脊椎疾患が発見され、DSAはその一部であることがわかりました。上位頚椎では慢性関節リウマチによく似た環軸関節亜脱臼や歯突起後方軟部増殖性病変(偽腫瘍)、下位頚椎や腰椎では靭帯肥厚、椎間板膨隆による脊柱管狭窄症が報告されています。また、これらも透析アミロイドーシスに起因すると考えられています。
透析に伴う脊椎疾患だからといって特別な症状が出現するわけではありません。変形性脊椎症や椎間板ヘルニアなどといった退行性脊椎疾患と同様の症状が出現します。また、透析に伴う脊椎疾患は退行性脊椎疾患と同様に背骨の動きの大きい頚椎と腰椎に好発します。
透析アミロイドーシスに関連した滑膜炎や付着部炎による関節や椎間板の破壊は椎間不安定性を出現させます。また、アミロイドの沈着による靭帯肥厚や椎間板膨隆は脊柱管狭窄を生じさせます。これらより脊椎の支持、運動、神経の保護といった機能が破綻をきたし、脊椎は病的な状態となります。頚椎が病的な状態となると局所の症状として頚部痛や肩痛を生じ、上肢への神経が障害を受けると上肢の痛みやシビレを、生じることがあります。頚髄が障害をうけると上下肢のシビレが出現し、手の指の動作が緩慢になり歩行もふらつくようになります。頚髄障害の初発症状は手のシビレが多く、透析患者さんに好発する手根管症候群の症状とまぎらわしいことがあり、注意が必要です。
腰椎が病的な状態となると局所の症状として腰痛や背部痛が発生します。腰椎で下肢への神経が障害を受けると下肢の痛みやシビレを生じます。また、安静時には症状がなく、歩行により下肢の痛みやシビレを生じることもあります。
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四肢のシビレと歩行障害の治療を目的として、受診された患者さんです。術前の単純X線側面像で、環軸関節に前方亜脱臼が、第三、四頚椎にDSAが認められました(写真1)。また、術前のMRI矢状断像で、歯突起後方に軟部組織の増殖がみられ、多椎間に脊髄の圧迫が認められました(写真2)。環軸関節亜脱臼および多椎問狭窄による頚髄症と診断して、環軸関節後方固定術および椎弓形成術を施行しました(写真3)。術後は四肢のシビレは軽くなり、歩行障害は改善しました。
〜最後に〜透析が長期にわたるとDSAを含めての脊椎疾患への不安は避けられないものと考えます。実際にはDSAを含めて脊椎に異常を認めても無症状のことが多く、症状を有しても局所の痛み程度が大半で、神経障害が悪化して手術を必要とする患者さんは決して多くはありません。また、不運にも手術を必要としても、手術の成績は退行性脊椎疾患の手術成績と比較して悪くありません。
東腎協 2000年10月25日 No.135最終更新日:平成13年3月16日
作成:Tokura