身体をほぐしましょう!

全身の筋肉、関節をストレッチ&エクササイズ
―透析者の運動について―

鶴田幸男先生(鶴田クリニック院長)

 良いと分かっていてもなかなか毎日実行できないのが運動です。QOL(透析生活の質)を保ち、いつまでも元気でいるためには運動―エクササイズや、ストレッチが有効です。
 この特集は、痛みの改善に光線治療で効果をあげ、またエアロビクス教室を週2回開催するなど、透析者の運動療法に熱心な鶴田先生にお願いしました。適度な運動で透析生活にアクセントをつけ、元気で長生きを目指しましょう。

 東腎協30周年おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。

透析医療は30年で大きく進歩

 透析医療はこの30年間に、大きく進歩かつ規模も大きくなりました。健康保険透析医療は色々な進歩があり、ベッドサイドモニター(監視装置)、セントラルサプライヤー(集中透析液供給装置)等の機器の改善、改良、また、ダイアライザーがハイパフォーマンス膜、人工膜となり、より効率良く、かつ分子量の大きい物質まで除去できるようになりました。
 HDだけでなく、透析濾過、オンラインHDF、プッシュアンドプルが開発され、高ブドウ糖もしくは低カルシウム透析液が供給されました。10年前のエリスロポエチンでは多くの患者さんがそれにより元気になり、注射用ビタミンD、他の薬物も使用可能となりました。
 副甲状腺腫に対しても切除術が主だったものが、PEIT(副甲状腺にエタノールを注入する方法)、最近はPCIT・PMIT(オキサロール、ロカルトールの注入法)と、どんどん新しい治療法が行われ、手根管症候群も鏡下手術、腎癌に対しても後腹膜鏡下剔出術と、治療法が進歩しました。
 一方、酢酸不耐症の人(高齢・小柄・肝臓の悪い人・筋肉の落ちた人に多い)に対して、AFB(アセテート・フリーバイオフィルトレーション)が2年前に保険を通り、やっと実地に治療し多くの患者さんが楽で充分な透析をできるという成果もあがっています。また、近年、カルニチン不足(透析途中からの不整脈や手足のつれ、また、終了後の高度の疲労感)の人に積極的なカルニチン投与で良い結果が得られています。
 今後、これらの治療が広く受けられる体制作りが必要となっています。

弱者に負担増の政策

 現在、厚生労働省が中心となり、政府が日本での福祉の後退、医療費・介護費の削減を強力に押し進め、7月の医療法改悪で1兆5千億円、介護保険料の引き上げで2100億円、年金の給付額の引下げで9200億円、雇用保険料の2段階の引上げで6000億円と、この1年で総額3兆2400億円の社会保障の負担増、給付減を行なおうとしています。弱者に対して無謀と言うべきか、もしくは生きる場を奪おうとしています。
 そして、その医療費の中でも、透析医療費1兆円が目の仇とされ、これからもターゲットとされていきます。
 皆様で団結して、世界に誇る透析医療を守り、育てていきましょう。

運動は大きく分けて4種類

〈日常生活も立派な運動〉

 あなたが1日の中でやっている生活の一つ一つを見ていくと、体重60sの人で次の様になります。

  1. 電車やバスでの立位の通学・通勤30分は、68kcal
  2. 入浴30分は110kcal
  3. ふき掃除10分と掃除機かけ10分で70kcal
  4. 買い物30分は、87kcal
  5. 洗濯物干し10分は35kcal
  6. アイロンかけ20分は55kcal

 また、80kcalを消費するのに必要な時間の例を挙げます。

  1. 1分間80mのペースでの歩行は18分
  2. 軽めのジョギングは10分
  3. 軽めの体操は24分
  4. 1時間10kmの自転車こぎは13分
  5. 水泳はクロールで4分、平泳ぎで7分
  6. 階段は昇りで10分、降りで20分
  7. テニスや卓球は9分
  8. バトミントンやゴルフは16分となります。

 この様に日常生活も立派な運動です。意識して身体を動かしましょう。

 さて、自分の体で、「あそこやここが痛い」「長く歩くのが辛い」では大変困ります。上手くトレーニングをして良い状態が維持できるようにしましょう。
 それでは、これから透析医療を受けている皆さんが日常できる運動、スポーツについてお話をしていきましょう。
 運動には、
  1. 毎日の日常活動レベル〈ADL〉の維持、もしくは向上のためのもの。(ADL…activity of daily living.)
  2. 病気の治療のため、例えば、糖尿病のインスリン抵抗性を改善するための運動療法。
  3. 若さを保ち、心肺機能を向上させたり、耐久力をアップさせるために行うエアロビクスやリズム体操。
  4. 競技や試合に出るために身体を鍛える運動。スピードを上げたり、強くなる目的。
といった種類があります。

痛みの改善がまず必要

〈T〉首が痛い、腰が痛い、膝が痛い…そのために身体を動かせない、歩くのがおっくうだという方も多いと思います。
 関節の変形・ズレや椎間板の老化・圧縮・ヘルニア、筋肉の硬化、血流不良、脊髄の圧迫・周囲のむくみ等が原因です。
 対策は、血流改善には入浴、特に温泉やマッサージ、また、低周波・赤外線・牽引・鍼灸等があり、一時的に痛みを減らす方法として鎮痛のための湿布・軟膏・ローション・内服・坐薬・注射等があります。
 これらを使い、痛みが無くなった時に、ストレッチング(筋肉の伸展)、押す・叩く・ブラブラさせる、また、柔軟体操をするなどの筋肉と関節、神経のトレーニングをする事がポイントです。

 では身体の上から順に具体的に説明しましょう。

〈注意点〉
  1. 息を止めずゆっくり鼻から吸い、口から吐く。
  2. 反動をつけない。
  3. 無理をせず気持ちいいところで止め、徐々に負荷をかけていくこと。
  4. 動作は5秒保持、回数は5〜10回を目安に始める。

1)顔、頭部

2)首   

写真a 写真b
写真c 写真d
写真e 写真f

3)肩

4)肘、手

5)体幹

6)膝

7)足首

コルセットは筋力をアップしてはずせる

 軟性コルセットやギプスを胸や腰に巻いたり、膝に装具を着けている人は、そのままでは筋肉が硬くなったり、筋力がダウンします。
血流を良くし、痛みをコントロールし、装具等を外して筋肉を使う方法が、長い目で見ると良い結果を生みます。
 一方、脳血管障害(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など)になって、手足が思うように動かせない人達には、まず障害を受けていない脳細胞を賦活し、脳のネットワークを新たに構築するために早めにリハビリテーションが必要です。
 大事な事は、絶対に回復するという確信を、本人も周囲の人も持って、ねばり強く毎日続ける事です。
 目を見張るほど元気になる人がいます。それは本人のやる気とそれを支える家族やスタッフの努力であり、その成果が次の改善・回復のパワーアップにつながります。
 また、回復の活力は、美味しい食事、充分な睡眠、入浴やマッサージ、好きな音楽が源です。そして、元気のでる香りを嗅いでテンションが上がればもう言う事はありません。

1日8000歩が必要

〈U〉肥満・高脂血症・動脈硬化や、糖尿病では、霜降状態の脂肪のついた筋肉を正常な赤身の筋肉にし、インスリンの効果をアップすれば、スリムになって減った体重分だけインスリンが不要となりますので、そのための運動をしましょう。
 できれば週に2〜3回、可能であれば連日、1日8000歩以上の散歩や買い物、もしくは通学・通勤時の1駅を歩くように心掛けましょう。
注意としては、アスファルトは足首や膝を痛めます。ウォーキングシューズやスニーカーをできれば用意し、もし可能なら芝生の上を歩きましょう。更にカンカン照りの陽射しは、シミやほくろの原因になるだけではなく悪性黒色腫や皮膚癌の原因になります。
 また、我々の首の頚動脈には大事なセンサーがあるので、冬場は首の保温を、夏場は過度の高温から冷して体温調節し、脱水・熱射病にならないように注意します。
 具体的には、冬はマフラー、夏は帽子と襟を立てて首筋を守るという事です。できれば空気のきれいな場所、時間帯を探してゆったりした気持ちで大きな歩幅で鼻から空気を吸って、口から吐いて、背筋を伸ばして歩く事により、今よりどんどん健康になって下さい。

糖尿病の人は食後1時間の血糖を上げない

 特に糖尿病の人は、合併症が怖いわけですが、食後の高血糖が諸悪の根源です。食後1時間の自分の血糖を知る事が、まず第1歩です。そして、糖尿病の事がわかっている眼科医を見つけて定期的に診察を受け、悪化していれば生活も現在の治療も不充分という事になります。
 食後の血糖を上げない方法としては  
  1. 良く噛まないと飲み込めない物、(代表は玄米とキンピラゴボウです)を摂り食後の血糖を上げすぎない。
  2. ベイスンやグルコバイなどのゆっくりと血糖を上昇させ、上げすぎないように小腸の吸収を調節してくれる薬を服用する。
  3. 歩く事によって赤身の筋肉になると、インスリン感受性が改善します。
 毎日の運動、特に歩行が大事になります。

ニコニコ笑顔でエアロビクス

エアロビクス
クールダウン
〈V〉エアロビクスは有酸素運動と訳されますが、足を大きく使い、身体をリズミカルに動かし、酸素を取り込む体操です。前後でストレッチングといって関節、腱を引伸ばし、血行を良くして最後にクールダウンという身体の鎮静化を行い、約40〜60分間で終了します。
 大切なのはニコニコ笑いながらやることです。また、詩吟・浪曲・カラオケ等で腹から大きい声を出す事は肺だけではなく心機能も改善させます。是非楽しんで下さい。

〈W〉試合で勝つためのスポーツというと、色々あり、それらに参加している人達もいると思います。
 その中で一般的に透析者ができるものに、ゴルフや競技ダンス・卓球・クールダウン・ボーリング等があります。これらは充分楽しめると共に勝負の醍醐味を味わえますし、楽しみが増加します。

シャントの保護が重要

 では、透析者での運動のやり方を考える時に注意しなければいけない事は何でしょうか。
 その第一は、シャントの保護です。鋭い物でシャント部を傷付けると血液がふきだします。予防にはまず、膝用のサポーターもしくはネットや袖で保護をして下さい。
 また、血栓を作って詰まってしまう原因は、肘を深く曲げて長時間曲げたままにする腕枕、また、シャント側を下にした側臥位です。ぜひ気を付けましょう。
 強度の高い運動は心臓の悪い人、高血圧がひどい人、骨がもろく骨折しやすい人は、余程注意をするか万全の対策を立ててから、徐々にペースアップする事が大事です。
 透析を受けながら心臓バイパス手術を受けた人、弁置換手術を受けた人または、長期入院や臥床をした人達は、まず身体を慣らし、心臓や肺に負担の掛からない範囲から始めましょう。
 今は、心臓リハビリのインストラクターもいます。心配なら心拍数のモニター下で行います。高血圧症の人は自分にあったスポーツを楽しみ、充分な栄養をとると血圧は安定してきます。

一日の初めは鏡に笑って

〈物忘れにはくるみ握りが有効〉

  病的に物忘れがひどくなった、ちょっとボケたかなと思う人は、胡桃やツブツブのついた握力トレーナやボールで手指の曲げ伸ばしをして、手の掌のつぼをどんどん刺激しましょう。
  また、人と会話をする、字や絵を画く、簡単な計算をする、日記や手帳を毎日書く、歌う、笑う…これらが予防であり、改善の手段なのです。

 皆さんが毎日出来る事は、まず、朝目覚めたら「新しい1日が始まった」今日はどんな良い事があるだろうか、と思いましょう。
 男性は鏡を見て髭を剃ります。女性は鏡を見て化粧をします。その時に、ニコッとしてみませんか。苦虫を噛みしめて1日を始めるか、ニコッと笑って足取りも軽く、学校へ、職場へ、治療へ行くか…。是非、明るい日々を送りましょう。そのためには、痛い所、思う様に動かない身体、関節を良くしなければなりません。 そして、動くようになったら血行を良くするために冷さない、血流を増やす手だてをとる。毎日、歩き、柔軟体操、ストレッチングをして、身体をやわらかくし、血流を良くする事によって、お腹をすかせ、お通じも出やすくしましょう。
 笑うと血行が良くなり、身体の抵抗力、例えばバイ菌や癌にも強い体質が作られます。それにビタミンAやCやEが加われば、鬼に金棒です。
 では、いつの日か明るい笑顔の貴方と、是非、お会いしましょう。

                                                                 

東腎協 2002年10月25日 145

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                                                          作成日:2002年12月21日
                                                           作成者:佐々木勝利