第86回 会員さん訪問
映画監督から舞台演出へ 夢は息子と共に舞台作品
上垣 保朗
うえがき やすろう
導入月日 昭和63年
今回は、病気と闘いながら映画監督という仕事を続け、今回は新たに舞台演出にもチャレンジする上垣さんの熱い思いを語っていただきました。また、病院患者会の幹事としての取組みなども聞くことができ東腎協運営にも役立てていきたいと感じました。
―現在までの経過を教えて下さい。
上垣 昭和56年に尿道炎から慢性腎炎になりCAPDを10年続けた後、平成10年に血液透析となりました。
CAPDの間にも3回程腹膜炎にもなりました。
―導入時の心境はいかがでしたか。
上垣 まだ、40歳でしたのでやはりショックでしたが楽天的な性格なのでこれも自分に課せられたものと前向きに考え、受け入れる事ができました。ただ、仕事がありましたので一日4回のバッグ交換に慣れるまでには1年かかりました。
藤田敏八監督の下で助監督
―現在の映画監督というお仕事の経歴を教えて下さい。
上垣 大阪の大学を卒業後、運良く日活撮影所に就職でき、今は亡き藤田敏八監督の下で助監督の仕事に就きました。
しかし、その日活撮影所は1年で倒産となったが、何とか持ち直し、その後は日活ロマンポルノへと移行して、助監督を経て監督となり14本の映画を製作しました。昭和58年にフリーとなってテレビコマーシャル、ビデオ用映画の監督に就いています。
―映画監督という仕事に就いたのには何か理由があるのですか。
上垣 子供の頃は月に1回家族で石原裕次郎などの映画を観に行く習慣があり、映画を身近なものに感じていましたね。
でも、大学2年生まではサラリーマンにでもなろうと考えていました。ただ、私のような団塊の世代は生まれつき競争社会で育っているので他人より目立ちたい、人と違う仕事をしたい、という気持ちが強くありました。又、自分の手で何かを作りたい伝えたいという思いがあったのでこのままサラリーマンになるのは何か違う、と思うようになり映像の仕事を選んだのです。
―CAPDや血液透析は仕事に影響を与えましたか。
上垣 CAPDはバッグ交換だけなので支障は少なかったですが、血液透析に入ってからは仕事に限界を感じました。
映画の撮影は長期間に及ぶので規則的な通院は難しく短期間の仕事が中心となってしまいました。
現在は舞台演出の仕事にも取り組んでいますがこちらは透析時間以外を上手く使っています。
映画から舞台へ
―舞台演出の仕事の内容を教えて下さい。
上垣 映像と舞台では全くジャンルが違います。
映像は作った作品を観客に提供するのですが、ある意味で製作者側の押し付けがあるんです。
演劇は役者と観客が一体となり作品を作るんです。舞台に一脚の椅子が置いてあっても演じる役者によっては喫茶店の椅子にも自分の部屋の椅子にもなるし、観客1人1人のイマジネーションによっても全く違う空間になるんですよ。
―舞台への転向には何かきっかけがありましたか。
上垣 日活撮影所に同期入社で監督の友人が3年前に他界し、「死」という事を身近に感じるようになりました。今まで、自分が入院した時でも死ぬという実感は無かったのですが……。
自分が生きている間に何を残せるのか?
子供に対しても物質的なものでは無く私の仕事の中で何かを残したいと思っています。
息子は現在、高校生ですが子供の頃から芸能プロダクションに入ってコマーシャル出演など行っているので私の作品にも主演する予定です。息子が将来、役者になるかは未定ですが、私はいまさら他の仕事もできませんので自分の最後の仕事として息子と共に息子の心に残る作品を作ろうと励んでいます。
来年8月に追悼作品を公演
―今後の作品、公演予定について教えて下さい。
上垣 今年の12月に小劇場での公演を予定しています。
又、来年の8月には藤田敏八監督の追悼作品を公演する予定です。
こちらは秋吉久美子さんなど藤田作品にも出演した役者の方々にも出演いただこうと思います。
内容は現在の大人が忘れてしまった子供の頃の切なさというか、大事なものが思い出せるような作品にしようと思います。
私と同じ1960年代に青春時代を送った、いわゆる団塊の世代の心境や生き様を描き続けて行きたいです。
透析患者の方々にも親しんで観てもらえると嬉しいです。
会員が興味を持つ活動を
―最後になりましたが東腎協に対する要望はありませんか?
上垣 現在は東腎協の幹事をしていますので病院の掲示板に総会や勉強会の案内を張り出すのですが反応が少ないのが残念です。
会員の方々も休日は家族と過ごしたり、色々と忙しいと思うのですが勉強会など内容の濃いものも多いので、是非、参加してもらいたいです。
総会などは一日がかりで大変なので年次報告や講演会だけでなくレクリエーションと併せるなど、会員が興味を持つような工夫があると参加しやすくなると思うんですが……。
自分の病院の患者会員には東腎協の活動を理解し協力してもらえるように、又、会員が増えるように私自身も勉強していきたいですね。
〈あとがき〉
今回訪問した上垣さんには仕事に対する熱い思いを語っていただきました。作品の公演がとても楽しみです。
今後の活躍を期待しています。 (取材・小野、写真・軽部)