●特集 透析回避にむけた腎臓再生医療の最先端
―クローン腎臓作製は可能か?―


講師:医学博士 横尾 隆先生
東急病院透析センター勤務
東京慈恵会医科大学腎臓高血圧内科
DNA医学研究所遺伝子治療部門

 今回の特集は、昨年7月に行われた、「全腎協関東ブロック青年交流会in東京」で大変好評だった記念講演の一部を誌面に掲載しました。透析患者にとっていい話題の少ない今日、地道に我々、そして医学の発展のために研究を重ねてくださっている、夢のような、でももしかして近い将来実現するかもしれない希望が持てる講演でした。

 司会:きょう、ご講演いただきます横尾隆先生をご紹介いたします。
 横尾先生は、1991年に東京慈恵会医科大学を卒業後、英国ユニバーシティーカレッジロンドン医科大学に留学され、帰国後、東京慈恵会医科大学付属病院、東京慈恵会医科大学付属青戸病院などを経て、2005年4月より東急病院透析センターに勤務されております。また東京慈恵会医科大学腎臓高血圧内科DNA医学研究所遺伝子治療部門にて、クローン腎臓作製についてご研究をされております。それでは横尾先生よろしくお願いいたします。

 ただいまご紹介にあずかりました横尾と申します。私、卒業後腎臓内科に入りまして、日々患者さんと接する中でいろいろ問題を抱えていることを実際に聞いた上で、それを研究に生かしていけないかという思いで15年間やってまいりました。今回はこのような場でお話しさせていただく機会を与えていただいたので、皆さんに少しでも希望を持っていただき、何かやりそうなやつが日本にもいるぞ、ということをわかっていただければと思っております。
 透析患者さんって大きく分けて2通りあると思います。1つはもう透析が生きがいになってしまっている方。もう1つは、「こんなことを一生やってられるか」という方。それは当然だと思います。ちょっと前までは、「透析して命が永らえているからいいじゃないか」という考え方でとらえられていた腎臓病も、長期透析が可能となり、実際ものすごく辛い思いをしながら透析をしているということをだんだんわかっていかなくちゃいけないんだけど、ほかの人はわかってないですよね。一見皆さん元気そうに見えますし。もうこれが一生続くというのはやっぱり辛いと思います。で、腎臓内科医に聞いてみましょう「私、一生透析しなくてはいけないのですか?」そうしたら大抵の人がこう言います。「しなきゃ死んじゃうよ。」これではだめなんですよね、医者として、仲間として。やっぱり僕らのグループは少なくとも「僕らが何とかしてやるよ、一生透析しないよう済ますようにしてあげよう」ということで。「だから一緒に頑張ろうよ。いつかは透析をやらなくて済む日が来る」と。移植じゃなくて自分の尿をもう1回つくらせるということを目標にしなくちゃいけない。

★再生医療について★

 今、再生医療、再生医療と夢の治療法として騒がれていますが、皮膚とか粘膜とか、組織を再生するのはかなりうまくいっていますが、臓器をつくるのは非常に難しい。
 じゃあどういったことをやっているかというと二通りのアプローチがある。
 幹細胞というのがある。臓器のもとになる、幹となる細胞を幹細胞というんですけど、5〜6年前からいろんな物が見つかってきて一気に再生医療に火がついたわけですけれど、腎臓の幹細胞というものはまだ正式には見つかっていないわけですね。
 この幹細胞が、腎臓だったら腎臓の中に存在する場合は、その眠っている幹細胞に何か刺激を与えて、臓器再生するためのスイッチを入れるということによって、その臓器をつくりましょうというアプローチ。
 もうひとつは、流血中か、もしくは骨髄に幹細胞が存在する場合は、足りない幹細胞を外から補うことによって、臓器を再生しましょうというアプローチです。
 これはどこの臓器でも同じようにやられている。今、実際、両方あるでしょうといわれている。例えば、肝臓の中にもともと肝幹細胞がある。肝臓が壊されたときに最初はそこから修復に当たり足りなかった部分は流血中、骨髄から血管に乗ってその幹細胞が供給されてバックアップとして助ける。一方で眠っている細胞を起こそうとするスイッチとなる特殊な蛋白質も見つかってきた。
 これはすごく科学、サイエンスの上では非常に大切なことなんですけど。同様の研究で腎臓の再生医療はどんどん進みますよと、みんながこう喜んで、新聞とかもさんざん取り上げられて来た。これが今までの腎臓再生医療の最先端なんです。じゃあ、これ皆さんのためになるのでしょうか。腎臓の形は保たれていて一部は壊されている急性腎不全なら、その壊されていないところに、幹細胞を補足したり、スイッチを入れてやれば、治るでしょう。ただこれは透析患者さん、慢性に壊されているような腎臓に今までの再生医療は対応してないんですね、全く。「急性の腎不全が治るから、慢性腎不全もうまくいきますよ」ぐらいの、少しそこらへんをうやむやにして最先端と言っている人たちがいるんですけど、これは当然透析患者さんをターゲットにした治療法ではない。

臓器工場を持っている★

図1
図2
図3

 腎臓病の現況というのは、これは皆さん方を救わなきゃしょうがないということなんですね。透析患者さん一生懸命前向きに生きている方、寝たきりの方も含めて23万人いる。毎年、大体3万人が増えて2万人がなくなって、1万人ずつ増えている。今後、高齢化、糖尿病の増加によって、これはもう爆発的にふえる、これはもう間違いないです。
 透析の医療費だけで1兆円かかっていて医療費全体の32分の1。大体70歳以上の医療費で一番かかっているのが脳卒中なんですけど、それが大体1・2兆円。ですからそれに匹敵するぐらい、ガンなどもいろいろ言われていますけれども、そんなものよりはるかにお金がかかってしまっている。これは医者じゃない研究者がよく見落とすのは透析というのは、もう命は助けられる(ライフセイビング)であるけれど、いろいろ苦労があると。山ほどの薬を飲んで、もういろんな制約がある。それだけじゃなくて、血管の障害、合併症で同じ歳の人に比べればやはり早く亡くなる可能性が高い。こういったことを見落とされている。
 では、移植すればいいじゃないかと言うけれど、慢性的なドナー不足。日本だけじゃなくて世界的にドナー不足です。登録後平均14年待つ。その上待っていたらその間に、骨だって弱くなるし。移植が仮にうまくいったとしても、免疫抑制剤を一生飲まなくてはいけないことになる。こういうこと考えるとやはり救わなくてはいけないのは皆さんのこと、今後ふえ続けるであろう透析患者さんを助けなきゃいけない、そういうことですよね。
 じゃあどうしようか、ということで僕らがもうずっとやっていることは、その一個の細胞だけをつくるのではなくて腎臓の形を持った、機能する腎臓をつくること。だから血管などの再生医療非常に進んでいますけれど、それを追従しているような、今の腎臓の再生医療というのは、腎不全に対しては全くこれは意味ないです。なので、これは今まで間違った方向。こういった慢性腎不全の患者さんたちを何とかしようという方向に持っていかなきゃいけない。これをやっているのは基本的には我々を含むわずかなグループだけなのです。じゃあどういうことやりましょうかと。
 究極の目的は、『自己の細胞から、腎臓の構築を含むすべてのクローン腎臓をつくって、それを戻して自己の尿をつくる』(図1)そうすれば自分から自分をつくるわけですから、免疫抑制剤もいらないし、1個つくればいいわけですからドナー不足も回避する。で、透析しなくてよくなる。こんなことできるのかということを皆さん思われるかと思う。その大きな原因の1つとしては、腎臓というのは非常に複雑にできているからでしょう。
 これは腎臓です。(図2)複雑だなということを示す1つの図なんです。腎臓って全身から血液を集めていって、最初に糸球体というところで濾過されると、濾過されたものが細い尿細管というところを通っていって尿になるわけなんですけれども、その尿細管も同じ1つのチューブではなくて、最初に近位尿細管、遠位尿細管、集合管というのがあって、それで最後それが集まって尿になっていくと、その中に血管が絡みついていて濾過されるだけじゃなくて尿細管でもいろんなものを出し入れする。近位尿細管で出し入れするものと、遠位尿細管で出し入れするものは全く違う。結局こういうふうに複雑な構造をつくっている。こんなものお皿の上でつくれるわけがない。
 じゃあ我々がどうやっているかと、基本的な方法として、『免疫的寛容段階の異種の胎児を臓器工場として用い、自己の細胞由来腎臓をつくる』。(図3)臓器工場という言葉を覚えてください。どういうことかというと、我々は腎臓をつくる力を持っているんです。私たち、最初は1個の細胞、受精卵だったんです。それが十月十日たって、「オギャー」と人間として産まれてきたわけです。日本人だけじゃなくて世界にいる40何億人、間違いなく1つの細胞からみんな同じ体をつくっているんです。これは猿とかも含めれば物すごく、正確だけれど間違いのないプログラムを持っているんですよ。これは奇跡的なことだと思いませんか。

腎臓をつくる★

図4
図5

 つまり、我々は腎臓をつくる能力をもう持っているんだけど、それを忘れているだけなんです。そのプログラムをちょっと拝借しましょうと。腎臓ができる瞬間をちょっとほかの動物に貸してもらいましょうと。だったらどうしましょうかと、頭のいい人はこう考えます。じゃあそのプログラムを解き明かしましょう。一個一個このタイミングでこの蛋白質がかかわっているよということで1つの論文になります。ただ、これ果てしない数ですよ。時間的にも空間的にも非常に入り組んでいて。これらすべてがわかれば一個の細胞から何もないところで腎臓つくることができるわけですけれど、こんなこと待っていたら皆さん、正直私もそうですけど、私の目の黒いうちにはできないでしょう。
 だったら難しいところだけ任せましょうというのが僕らの考えなんです。これ、胎児にやってもらいましょうと、腎臓のもとになるものができる瞬間。このときだけほかの成長中の動物の体をちょっと拝借させてもらう。それでいろんな刺激をその体の中で加えてもらって、皆さんの体からとった細胞から腎臓のもとになる芽を出させてやる。それをみなさんの体に戻すことによってさらに成長させて腎臓をつくりましょうというのがその方法です。
 胎児の大体足の付け根ぐらいに腎臓というのはできるのですけど、周りにある細胞群がいろんな刺激を受けることによって腎臓になっていく。(図4)その刺激を受けさせてやることによって腎臓をつくってやろうということです。じゃあ、腎臓ができ始めているところで入れてやったらどうなるか。これ腎臓にならないんです。つまり、もうでき始めちゃ遅いんです。できる前にちょっと入れてあげる。最初のシグナルが非常に重要なんです。間葉系幹細胞という皆さんの骨髄にある細胞をとってきてやって、成長するちょっとこの間、正確には測れないんですけど、この段階に打ち込んだら、もしかしたら腎臓ができるかもしれない。じゃあどうしましょうか、残念ながらラットとかマウスをこんな時期に腎臓取り出しちゃうと、子宮に戻してもお母さんも死んで子供も死んじゃうので、まず最初にやったことは、これ多分腎臓になりそうだと思ったから、子宮と同じような環境をつくってあげて、この時期に成長を継続できるようなシステムをつくったわけです。
 そして、腎臓ができる瞬間は成長し続けさせるシステムをつくり上げたわけです。一番重要なタイミングではラットを育たせることができる。じゃあ、ここから腎臓をとってきてやって、さらに培養皿の上で飼ってやったらどうなるかというと、腎臓のもとになるような形にはしっかりできていることがわかりました。じゃあ打ち込みましょうということで、これは人じゃないと意味ないですから、アメリカから買った人の間葉系幹細胞を使ったわけです。アメリカって結構こういうことを商業化するのがすごくうまいですから、買えるんです。売っているということは、比較的簡単にとれるということなんです。今回はまだ患者さんでやるわけにはいきませんから、買ったものを打ち込んでやって、これから腎臓ができるかということを確認しました。この細胞というのは1カ所に固まっていないで、だんだんと時がたつにつれて腎臓の中に入り込んで分裂していきます。この細胞はちゃんと腎臓になっているかどうか確認すると、尿細管にもなっているし、その間の間質細胞にもなっているし、糸球体にもなっている。要はネフロンできそうだということがわかりました。でもまだ尿はできてないんです。
 次にやったのが、このシステムを使ってファブリー病という先天性の腎臓疾患、大体50歳から60歳ぐらいで腎不全になって透析になる病気のマウスを治しましたということをやったわけなんです。このファブリー病というのはX染色体劣性遺伝で、男性しかならない病気なので、お母さんはならないんです。そこで、おなかの中にいる間にファブリー病になったということがわかったら、お母さんから骨髄をとって、間葉系幹細胞をつくって、自分(胎児)の腎臓のところに打ち込む。そうすると、出てきた子供は本当はファブリー病なんだけど、腎臓にだけは、その欠損遺伝子を持っているから、腎不全にはならないよという「こういった治療法にもできますよ」ということを言っているわけです。(図5)

★尿をつくる★

図6
図7

 で、もう皆様産まれちゃっていますから、出生前のではだめだと、じゃ皆さんの尿をどうやってつくりましょうかというのに、次に移ってくるわけですね。何で、これまでのは尿ができないのかというのは、血管系が入っていかないからですね。治したい人の血液を集めて浄化し、尿を生成しなければ腎機能回復は見込めない。
 というわけで、じゃおなかの中で、血管が一番入りやすくて、場所が大きく、腎臓が大きくなってもそれだけのスペースがあるようなところはどこかというと、大網1カ所しかないんですね。胃の下に、へらへらと膜がついているんですよ、人間って。そこは血管がどんどん集まってくるところ、よく内臓脂肪とか言われるかと思いますけど、大網に脂肪がたまることが多いんですよね。血管が豊富なので。だから、治したい患者さんからとったもので腎臓のもとになるものをつくったら、それを大網に戻すことによって、血管をどんどん入れることによってさらに大きくすると。そうしたら、その患者さんの尿をつくることができるじゃないかと、いうことをやったわけです。
 そして、ラットのおなかの大網の中にちゃんと腎臓ができることが確認できたんですね。ちゃんと腎臓の構築を持って、メサンギウム細胞だとか、糸球体上皮細胞ですとか、こういうようなものも持っているし、血管がどうやら入っていそうだと。そこで腎臓ができる前のラットの胎児から48時間飼ってやって、腎臓ができるところまでもっていって、24時間だけちょっと飼ってあげるとちょうどいい大きさになるので、これを別のラットの大網に戻しましょうと。そうすることによって、このラットの胎児の腎臓をおなかの中で育てることができると。(図6)
 取り出してくると、大網から血管が入っていて、これは要するに患者さん側ですよね、腎臓に入ってくる、尿細管の間に入り交じっている、入り組んでいる血管系というのはすべて患者さん側の血管なんですね。つまり、この出し入れというのはどうやらできそうだと。で、電子顕微鏡という、すごく細かく見る顕微鏡で見るとちゃんと糸球体の中に、濾過膜、基底膜というんですけど、濾過膜のところの血管の中に赤血球があると。入れた腎臓のもとになるものには赤血球はないですから、これは植えた細胞にもらったラット(患者さん側)の全身の血管から赤血球がここまで入り込んでいる。つまり、それがつながっているということを示している。
 じゃ、人の間葉系幹細胞から腎臓がつくれるかどうか確認しましょう、というわけですね。で、それをやってみたらやっぱりできるんです。
 これは、もともとは人の細胞だったんだけど、ラットのおなかの中でここまで大きく育つ。見てみると、青いところは人由来の細胞です。(図7)だから、さっき取り出したやつの大体7割から8割ぐらいは人の細胞で置きかえられることができる。つまり、ここは患者さんの細胞由来の部分ですけど、ここまで腎臓はできますよ。では、実際、尿ができているのかということになるわけなんですけど。4週間、これ長いこと飼ってやったらどんどん大きくなるかなと思ったら、ならないんですね。なぜかというと、尿管も伸びるんだけど、尿管が脂肪の中に埋まっちゃって、結局尿が出てくる出口がないので水腎症になっちゃうんですよ。水腎症って出口がなくて腎臓がはれちゃう病気なんです。水腎症になっちゃう。これ、どんどん腎臓から尿ができているんじゃないかということで、取ってたまっている液を調べてみたら、ちゃんと尿だったと。
 だから、要するに患者さんの細胞から尿をつくるということまでできるということが確認されたんですね。

★透析を止める日が来る★

図8

 今は、末期の腎不全になった人は入院してシャントつくったり、テンコフ(CAPDの腹部挿入管)入れたりして透析を一生する。もしくは移植をするけど一生免疫抑制剤を飲み続ける。でも、将来的には、その姿は変わっていって、入院したら、骨髄をとってあげて、1日から2日、ほかの動物の胎児が成長する瞬間にちょっと入れてあげる。で、わずか数ミリの腎臓のもとになったものができたところで、おなかの中に戻してあげる。そうすると、自分の血管が入り込んで、自分の尿ができ始める。で、完全にあなたの生活をリセットできますよと、いうような方向で話が進めば、一番最初に言った慢性腎不全に対する治療法ということにつながる、ということが言えるかと思います。(図8)
 今までちょっと方向性が違うということで僕らは声を大にして、ちょっと皆さん慢性腎不全の患者さんに力を注ぐべきだと言っていたんだけど、そんなことはとうにわかっている人たちが世界にもたくさんいて、それぞれ独自に研究をすすめています。そのどれがうまくいくかわかりませんが、あるとき突然「もう透析しなくて済みますよ」という日が必ず来ます。だから皆さんもぜひ、ひとつ頑張っていただいて、あきらめないでそのときに一番いい状態を保って、透析をやめていただきたいと思いますので、ぜひ頑張ってください。私たちに力を与えていただいて、私たちも力を、それに答えられるように頑張りますので。
 きょうはご清聴ありがとうございました。

質問に答えて
 質問:将来的にはどのような動物で腎臓のもとを作るのでしょうか。
 横尾:今、大型の動物で始めているんですけど、拒絶の問題とかありますが、胎児の早い時期というのは免疫系がうまく働いていないので、患者さんの骨髄をとって入れたとしても、大丈夫なんです。ただ、異種ものが入りますけれど、いずれにしろ、わずか1%とか、2%異種の細胞があったとしても、それはご自身の免疫力で排泄できますので、結局は自分だけの腎臓にすることができるというシステムです。

 質問:できた腎臓の芽を入れたら育ったけど水腎症になったというお話ですが、その辺は、実際のところはどうなるのでしょうか。
 横尾:尿管の芽もだんだん育ってくるので、そのタイミングに合わせて自分の膀胱につないであげればお小水は出ます。大網はかなり下の方まであるので。この細胞を大網に植えるということも内視鏡でできますし、その後できあがった尿管を膀胱につないぐことも内視鏡でできます。

 質問:感染症についてお伺いしたいんですけれど。
 横尾:いわゆる、ばい菌がない状態というのはつくれるんです。何が問題になるかというと、ウイルスなんです。ウイルスというのは、細胞の核の中、遺伝子の中に入り込んでいて、一見わからないんです。患者さんに移すことによって、人間の遺伝子に入るようなウイルスが問題になってくるわけなんですけれど。これが例えば、豚から人に感染するウイルスが一個あるということは言われていたのですけれど、これは細胞レベルだと感染するんだけど、人では感染しないということは証明されているんです。それ以外のウイルスは今のところ見つかっていないです。確かに、感染というのは非常に問題ではあるんだけど、それに対する研究をもちろんしなくちゃいけないけれど、我々は、もっともっと、せっぱ詰まった状態にいる。これは、やはりクリアするためには、ある程度のリスクは理解していただいた上でやらなくちゃいけない。今、見つかっていないウイルスは確かにあると思うんですけれども、これは、クリアできると思います。例えば、僕の体の中に異種の皮膚を移植しても全部拒絶されますよ。我々、免疫力は持っているわけなので、それは拒絶できるので、まず、それは大丈夫だと思います。ただ、リスクはもちろん説明した上でやらなくちゃいけない。確かに未知のウイルスあるかもしれない、けれどそれのために止めるわけにはいけない状態というのが実際です。痛いところを突かれたと思うんですけれども、僕たち自身、やはりそれはある程度クリアできる問題だと考えております。

 質問:最初の方の再生医療のアプローチの方法は、腎炎、もしくは若干腎臓の機能が低下してきている方にとっては有効なんですか。
 横尾:有効だと思います。今まで出ているのは、人ではできないので、ラットとかマウスの研究になるんですけど、幹細胞を打つことによって腎炎が少しよくなったとか、ウレア(尿素)の上がりが少なくなったとかという研究データはたくさんあります。
 今言われているのは腎臓のCCr(クレアチニン・クリアランス)25を切ってくると、既に構築が壊され始めていて、それで炎症を抑えたとしても、坂道転げるようにだんだん悪くなってくる。実際に今後、高齢者も糖尿病もふえることを考えると、透析患者さんの数も爆発的にふえるだろうし、それは予防医学だけじゃ止められるレベルではないと。かつ透析にかかる医療費というのが、透析に入る前の患者さんに比べると物すごく跳ね上がるということを考えると、やはり無視できないというか、無視できないどころかやっぱり注目しなくちゃいけない。今までは注目されなさすぎたというふうに考えていますが、やはり、それもだんだん皆さん気がついているというのが実際だと思います。


 司会:本当に長生きしてよかったという感じです。横尾先生ありがとうございました。
 横尾:ありがとうございました。(拍手)

東腎協 2006年1月25日 161

 


最終更新日時:2006年4月29日
作成:H.SUGA