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リレーエッセイ129

渡良瀬川の源流で生まれ育ち 鉱山野郎の仲間とともに

渡辺 忠志  人工腎臓虎の門・高津会 東腎協常任幹事

春晴千里  水清く
   霞とまがう 桜花
      はる酎の 渡良瀬や
人には忘れられない心の歌が、一つや二つ、あるものです。
私は昭和六年鉱害で有名となった、渡良瀬川の原点にある足尾銅山のある足尾町の、高原木という所で生まれました。親子三代の鉱山野郎の長男として幼き頃より、鉱山野郎に可愛がられながら育ちました。
鉱山野郎というと男の中の男としてその当時は貴重な労働力でした。今日の日本の基礎を築いたという自負心がありました。
掲題の歌詞は鉱害に似合わない四季を唄った一節です。足尾は銅山を除き、水と青葉、多種の動・植物、山菜の宝庫でした。夏の光景は次の歌詞でまとめています。
夏庚申の 滝の音
   緑滴る 満山に
      雲紅の 夕日影
鉱山野郎の日常生活は、昼間は地獄のような労働現場で働き、夜は酒と蛮声で過ごしていました。しかし共に生きようという思想は仲間意識を育て、連帯の組織を作っていました。そこには、階級意識もなく、学歴差も必要でなく、労働と生活を展開していました。人は逆境にあると必然的に結ばれるものと思います。

東腎協の常任幹事として、二年目に入りました。透析導入は昭和六三年でした。11年目の若造です。
現在、全国の透析患者は18万人と言われていますが、全腎協の会員は9万5千人です。何と、活動に対して半分以上の患者の皆さんがサポートしていないことを知り、驚いています。
私たち患者は恵まれた条件の中で透析医療を受けています。このことは全腎協を支えて、各都道府県腎友会、さらに市区町村の腎友会、病院別の患者会があって、行政側と対応しているからこその権利だと思います。会員は権利の為に義務を平等に負担しています。

もし、18万の患者の皆さんが平等に義務を守ったとしたらどうでしょう。こんな立派な組織は他に見当たらないでしょう。現代の政治はすべてとは言いませんが、数の要請によって大きく変わることもあります。
そのために東腎協は組織の拡大を図り、積極的な努力をしております。各病院患者会も未加入会員の問題で悩んでいると聞いています。
同じ権利を受けながら、患者会に入らない理由は何だろうか。自問してもわかりません。私流に言わせてもらいますと、ずるい精神としか言いようがありません。

今、東京都は財政緊迫により死か地獄かの選択に迫られています。結果はわかりませんが、弱者への自己負担を求める考えも捨てていません。
この時こそ、鉱山野郎のように共に生きる権利のために患者全員が平等に義務を果たし、患者会に加入しようではありませんか。小異を捨て大同ににつき、組織を守ろうではありませんか。

ダイナマイトに 命をかけて
    握るハンドル ドリルの響き
       掛けた発破が 鳴り響きゃ
          散るは黄金の直利のハクが
             どんと行こうぜ
                どんと行こうぜ 鉱山野郎

東腎協  1999年7月25日 No.129

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最終更新日時:2001年4月15日
確認:K.Atari